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『少女邂逅』は“瞬間”の尊さを教えてくれる 忘れがたい光景として胸に焼きつく“煌めき”

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 自信がなく、学校にも家庭にも居場所のない彼女の、“私ではない何かになりたい”、“ここではない何処かに行きたい”といった想いが、リストカットを試みることに現れていたのだろうか。その彼女のささやかな変身願望を満たしてくれるのが、転校生の富田紬(モトーラ世理奈)である。あか抜けた存在である彼女は、たちまちクラスの人気者となり、ミユリは憧憬の念をつのらせていく。そんなミユリに「私が君の価値を見つける」のだと紬はつぶやく。ものの価値とは、それそのものにあるのではなく、それに触れた者だけが決められるものだろう。映画や音楽の価値が、観客によってそれぞれ違うのと同じである。他者の存在、その出会いによって、初めて自分の価値というものを認めることができる。

 こうして“少女”が“邂逅”したことで、映画も少しずつ趣を変えていく。少女2人の楽しいひと時は、2つの画面に分割して映し出される。私たちが見つめるスクリーンの左半分は、ここまで観てきたこの映画の画面そのままで、右半分は彼女たちの手にするスマートフォンによる、互いを捉えた映像となっている。左の画面が相変わらず寒々しいものであるのに対し、右の画面は明るく躍動的だ。いまや誰もが持つ機動性のあるスマホらしく、自由自在に少女たちのあらゆる瞬間を収めていく。“彼女たち自身が構える”このスマホ越しの画面の明るさと躍動感とは、彼女たちにとっての、いまこの瞬間の世界の見え方だろう。つまり、いま目に映る、ただひとりの“君だけがいる”世界である。ここに「きみにまほうをかけました」を歌う水本の切ない声がリフレインし、ようやく“ムージック”する瞬間が訪れる。

 たしかに紬は、ちょっとばかりミユリを変身させ、ちょっとばかり日常を変えてくれる存在だ。紬の手によって少しだけ髪型を変えられ、印象が変わったミユリの周りには陽気なクラスメイト3人(近藤笑菜、根矢涼香、秋葉美希)が集まり、いまこの瞬間を楽しもうという彼女たちの明るい声が、ミユリの日常を、そしてこの映画を活気づけていく。しかし変化とはいえ、それはほんの少し髪型が変わっただけのことである。重要なのは、髪型の少しの変化で「可愛いは作れる」ということだけでなく、髪型の変化ひとつでも世界は一変することがあるということだ。

 そんな紬は、やたらとミユリを急かしがちである。ミユリに何かを求めるとき、たびたび彼女は「3…2…1」とカウントダウンしては急かすのだ。このときに、ふとオープニングシーンを思い出す。高速で流れていく車窓からの風景に、時計の秒針、そして「人が一生のうちに親友と出会う確率は24億分の1らしい」というミユリの声が重ねられたものだ。時間はあっという間に過ぎていく。少女たちは周囲の風景を置き去りにして時を刻み、やがて“少女”の期間を終えることになるだろう。ひとつひとつの彼女たちの姿が胸に迫るのは、あらかじめ終わりが明確に設定されているからこそである。“少女”、“蚕”、“邂逅”といったモチーフを巧みに織り交ぜて、大切な人との出会いで世界が変わることや、いまこの瞬間がいかに尊いかということを教えてくれる『少女邂逅』の煌めきは、永遠に忘れがたい光景として私たちの胸に焼きつく。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『少女邂逅』
新宿武蔵野館、イオンシネマ高崎ほかにて公開中
監督・脚本・編集:枝優花
劇中歌・主題歌:水本夏絵
出演:保紫萌香、モトーラ世理奈、土山茜、秋葉美希、近藤笑菜、斎木ひかる、里内伽奈、根矢涼香、すぎやまたくや、松澤匠、松浦祐也
製作:「少女邂逅」フィルムパートナーズ
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
(c)2017「少女邂逅」フィルムパートナーズ
公式サイト:kaikogirl.com

      

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