『半分、青い。』視聴者の共感は鈴愛を支える影の存在にあり 北川悦吏子が描く“天真爛漫女子”の毒

北川悦吏子が描く“天真爛漫女子”の毒

 また、幼なじみの菜生(奈緒)も、鈴愛を見守り、支え、励ます存在だが、1回の電話の中で「鈴愛~」「鈴愛ちゃん」「鈴ちゃん」とコロコロ呼び名が変わるところに違和感を覚えた視聴者もいたのではないか。もちろん鈴愛に対する愛情も親しみもある。しかし、安定しない呼び方には、対等ではない2人の関係性が見え隠れしている気がする。距離を縮めようと、互いの呼び方を決めても、畏怖や畏敬があってか、どうも対等な場所から呼びかけることができない。

 いつも鈴愛に対して保護者的アプローチで見守りつつも、無意識のうちに自ら“影”に回ってしまう。そこにはおそらく嫉妬もある。その微妙な気持ちが語られるのは、鈴愛が上京するときだ。菜生は言う。「何かが邪魔して今まで言えんかったけど、秋風羽織に認められるなんて、すごい。頑張ってな。応援しとる」。

 秋風塾生の同僚・ユーコ(清野菜名)の場合は最初、家族に愛され、人間関係に恵まれて育った甘え上手の鈴愛に対し、珍しくストレートな嫉妬心や嫌悪感を見せる。家族仲の良くないユーコが、電話で母親と敬語で話しているのを耳にした鈴愛は「まさか継母とか?」と悪気なく聞いてしまうほどの無神経さを思えば、無理もない。

 「いつだって誰かが自分を助けてくれると思ってる」「ちょっと可愛いから、恵まれて育ってきたんだね?」とユーコに皮肉を言われ、「恵まれていない」「左耳が聴こえないし、それでいじめられた」と鈴愛は反論するが、「だから余計、甘やかされたんじゃない?」と指摘され、大喧嘩となる。しかし、そんなユーコもまた、正反対だからこそ、鈴愛に心を開き、親友となる。

 ところで、「素直で天真爛漫」「思ったことをそのまま口にする」「無意識にちゃっかりしていて、自分勝手」「パーソナルスペースが狭い・距離の近い」タイプは、子どもの頃は人気者であるパターンが多い気がする。それでも、普通は成長するにつれて、「自分の話ばかりしてはいけない」と気づいたり、自分と違う物差しがあることを知ったり、本音と建前ができ、パーソナルスペースが広くなっていくものだ。

 しかし、鈴愛は大人になっても自分の気持ちに素直で、天真爛漫で、裏表がなくて、自分の話ばかりして、自分勝手である。この手のタイプは、ちょっと離れた場所から見ると面倒くさいが、一度親しくなり、“身内”側になってしまうと、自分にはない発想にいつも驚かされ(ときに呆れつつも)、一緒にいて楽しくて、気が楽……ということがある。律も、菜生も、弟・草太も、ユーコも、傍から見ると、天真爛漫で自分勝手な“光”に巻き込まれる犠牲者のようにうつるが、そこに安らぎを感じているのだろう。だからこそ、久しぶりに再会した鈴愛に、一方的に「大金出して買った高級ブランドの服を弟に洗濯され、パーティに行けなかったこと」を聞かされているのに、律は涙を流す。

 自分の気持ちを表に出すことが得意じゃない客観的で冷静なタイプにとって「自分勝手で天真爛漫な明るさ」は毒でもあり、心地よくもある。そして、多くの視聴者側が共感するのは、天真爛漫ヒロインではなく、その影になり、支えている人たちのほうではないだろうか。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』
平成30年4月2日(月)~9月29日(土)<全156回(予定)>
作:北川悦吏子
出演:永野芽郁、松雪泰子、滝藤賢一/佐藤健、原田知世、谷原章介/余貴美子、風吹ジュン、中村雅俊/豊川悦司、井川遥、清野菜名、志尊淳、中村倫也、古畑星夏
制作統括:勝田夏子
プロデューサー:松園武大
演出:田中健二、土井祥平、橋爪紳一朗ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

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