>  > 『リディバイダー』が描く崩壊する世界

二つの世界を描いた二つの演出 『リディバイダー』は崩壊しつつある現実社会を映し出す

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緊迫感は人間ドラマによってもたらされる

 主人公ウィルを演じているのは、カルト映画『ザ・ゲスト』で注目を集め、大ヒットした実写版『美女と野獣』でブレイク、幅広い人気を得た、「ハンサム」という言葉を具象化したような、少し危うい雰囲気を持ったダン・スティーヴンスである。前述したように、FPSは主人公の視点で描かれるため、基本的に主役の顔を見ることはできない。しかし本作は、地球のシーンではたっぷりと客観視点によってダン・スティーヴンスの演技を楽しめる。

 ダン・スティーヴンスが演じるウィルは、シングルマザーである妹と、その息子と一緒に暮らしている。何よりも大切な彼女たちの生活を守るため、ウィルは大企業の求めに応じて、エコーワールドを行き来するという危険な役割を引き受ける。その葛藤のドラマが存在することで、FPSシーンのアクションにも緊迫感が与えられている。こんな部分にも本作をハイブリッドにした意味がある。

 二つの世界をつなぐタワーには、無尽蔵なほど純粋なエネルギーが絶え間なく充填されていく。「タワーがエネルギーを吸収し、国中に電力が供給されるんだ」自宅からその様子を見て、妹やその息子にタワーの価値を説明するウィル。ウィルの妹は、そこに一つの疑問を持つ。「でも、どこから…?」

崩壊する世界が意味するものとは

 本作における、枯渇した未来のSF世界というのは、欧州やアメリカなど西洋が中心となってきた世界の歴史が重ねられているように思える。そもそも西洋の歴史は、他国や他民族、あるいは自国の人々から資源を奪ってきた歴史だともいえる。

 世界各国に植民地を作った大航海時代を経て、イギリス人は、18世紀後半に「産業革命」を成し遂げたが、その燃料となる石炭を確保するために、小さな子どもたちが炭鉱に駆り出され、狭い坑道で石炭を運ばされていた。

 また、ヨーロッパからのアメリカ入植者が「開拓」と称して、先住民から土地を奪うと、動物、植物、石油など、あらゆる天然資源を手にするだけでは足りず、さらにアフリカ大陸に住んでいた人々を奴隷とすることで、膨大な生産活動を支える労働力を安価に確保し、圧倒的な経済成長を成し遂げたといえるだろう。

 中東における石油利権に深く食い込むのは西洋諸国の企業であり、さらに近年では、アメリカ国内で天然ガスを採掘する計画によって、土地の汚染や、地域住民の健康被害が問題となっている。

 これらが示している歴史の側面は、ひたすら便利な生活や利益を追求するということであり、そのためには他者を、ときには同胞すらも犠牲にしてきたということである。現在ではこの悲劇のいくつかは過去のものだとされているが、本作に登場するエネルギー企業が「クリーン」だとか「安全」をことさらうたっていたように、法的・倫理的な面で批判されないよう、より巧妙に隠されるようになっただけで、その利己主義としての本質に大きな変化はないように思える。

 そのように、一部の人間の幸福のため犠牲を強いる社会は、世界の経済格差問題が深刻になるにしたがって、さらに極端な様相を呈してきている。そんな社会が持続可能なのだろうか。そして、一部の民族、ほんの一部の階層しか満たされない発展に、果たして意味があるのだろうか。

 崩壊する世界のなか、一方的に消耗品として命がけの仕事に派遣される男。この構図が示しているのは、もはや近未来ではなく、崩壊しつつある現実の社会そのものであるように感じられる。われわれは、そんな世界で戦う悲壮さを主観映像で追体験することで、現実に起きていることを圧縮した、濃密な感覚を味わうことになるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『リティバイダー』
6月9日(土)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開
監督:ティム・スミット
出演:ダン・スティーヴンス、ベレニス・マーロウ
提供:カルチュア・パブリッシャーズ
配給:松竹メディア事業部
2017年/イギリス/91分/原題:Redivider
(c)2016 REDIVIDER PRODUCTIONS,B.V ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:redivider.jp/

      

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