ジョニー・グリーンウッドとの制作の裏側 『ビューティフル・デイ』監督が語る、映画音楽の重要性

L・ラムジーが語る『ビューティフル・デイ』

 第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞と男優賞をW受賞した映画『ビューティフル・デイ』が6月1日に公開される。ホアキン・フェニックスが、元軍人で殺しを厭わない冷徹な人捜しのスペシャリストという異色の主人公ジョーを演じた本作では、州上院議員からある組織に囚われた娘ニーナの捜索を依頼された孤独な男ジョーと、全てを失った少女ニーナの交流が描かれる。

 今回リアルサウンド映画部では、監督を務めたリン・ラムジーにインタビューを行った。前作『少年は残酷な弓を射る』から今回の新作発表まで6年もかかった理由や、現在公開中のポール・トーマス・アンダーソン監督作『ファントム・スレッド』でオスカーノミネートも果たした、ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)が手がけた音楽について話を聞いた。

「この作品は全ての面においてクリシェを避けたかった」

ーー今回の作品は、あなたにとって3本目の長編監督作『少年は残酷な弓を射る』以来6年ぶりの新作となります。その間にはナタリー・ポートマンが主演を務めた『ジェーン』の監督降板など紆余曲折もあったかと思いますが、2本目の長編監督作『モーヴァン』と『少年は残酷な弓を射る』の間も9年空いていたりと、作品選びに信念のようなものがあるように感じられるのですが……。

リン・ラムジー(以下、ラムジー):確かに自分がしっくりこないとやらないところはあるかもしれないわね。『ジェーン』のように一度やると決めたことでも、ビジョンが異なって納得できなくなると離れてしまうこともある。ピーター・ジャクソンが監督した『ラブリーボーン』なんかは、実は私がずっと温めていた企画で、脚色しながら脚本も書いていたのだけれど、原作とは全く違う『ハムレット』的な解釈で書き上げていたから、原作ファンの人たちががっかりするんじゃないかということで離れることになったの。そういうふうに、自分が進めていた企画が5年後ぐらいに誰か別の監督が撮っていたという経験談は、映画監督なら誰しもが持っていることだと思う。でも、それだけの時間を作品に費やしていて、脳内でその映画を作り上げているということでもあるから、頭の中で作っている作品が次の作品につながっているというふうに考えることもできるの。『ジェーン』は本当にやりたかった作品だったのだけれど、製作陣が望んでいたものと私がやりたかったものが異なってしまって、結果的にああいう形になってしまって残念だったわ。

ーー『少年は残酷な弓を射る』に続いて、今回も原作ものの映画化作品になるわけですが、どのような経緯でこの作品と出会ったんですか?

ラムジー:今回原作となったはジョナサン・エイムズの『You Were Never Really Here』は、実はとても短い小説なの。私も最初に読んだとき、一気に読み終えてしまったのと同時に、主人公ジョーのキャラクターがとても興味深いなと思った。ただ、まだそのときは映画権も取得していなかったから、実験的に脚色してみることにしたの。ジャンルものの物語ではあるけれど、それを覆すことができるのではないのかと。そこから4週間で初稿を書き上げて、権利をクリアにして、映画化が進んでいったという流れね。とにかく今回はエンディングを含め、原作とは全く違う内容になっているわ。

ーー主人公のジョーを演じたホアキン・フェニックスは、キャリア史上最高とも言える素晴らしい演技を披露していました。彼を主演に想定したのはいつ頃だったのでしょう?

ラムジー:原作を読み終えて、脚色化にあたっての最初の1行を書く前だったわね。だから最初からホアキンをジョーとしてイメージしていたわ。自分のPCにホアキンの写真を貼って、「ホアキンは絶対にこの映画に出演するんだ!」と念を送りながら脚本を書いていたの(笑)。

ーー噂によるとホアキン・フェニックスもあなたとの仕事を熱望していたらしいですね。

ラムジー:実は私が降板してしまった『ジェーン』では、『セブン』や『愛、アムール』などの作品の撮影監督として知られるダリウス・コンジと組む予定だったの。私がそのプロジェクトから離脱したことによって彼も離れてしまったのだけれど、ダリウスとホアキンが今面白いと思う監督について話をしていたときに、ダリルが私の名前を挙げてくれたみたい。それがホアキンと私のコラボレーションの一番最初のきっかけだったわね。ホアキンにとっては、原作となった小説や演じる役どころがどうこうというわけではなく、監督としての私に興味を持ってくれたみたいだった。それに、ホアキンが主演を務めた映画『戦争のはじめかた』のプロデューサーが今回の作品でもプロデューサーに入っていて、たまたま連絡先を知っていたのも大きかったわね。“元軍人で殺しも厭わない人探しのプロ”というと、大柄で腹筋が割れていて……というタイプの役者を想定しがちだけれど、この作品は全ての面においてクリシェを避けたかった。ホアキンだったらまさにクリシェを避けた演技をしてくれるし、ジョーという役柄に人間的な要素をもたらしてくれると確信していたの。今活躍している役者の中で、最も才能ある役者の1人でもあるからね。

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