木梨憲武、新しいヒーロー像を切り開く 『いぬやしき』原作と瓜二つの“普通のおじさん”

木梨憲武、『いぬやしき』原作と瓜二つ

 現在公開中の映画『いぬやしき』は、2014年から『イブニング』で掲載された同名漫画の映画化である。カルト的人気を誇る漫画『GANTZ』で一躍有名となった奥浩哉の作品であり、人物描写のリアルさと主人公達に起こる非現実的な事象が、読者を『いぬやしき』の世界へと引きずり込んでいく。そんな『いぬやしき』の実写映画化で、謎の事故に巻き込まれたことで、人ではない存在になってしまった主人公・犬屋敷壱郎を演じるのが木梨憲武だ。

 木梨憲武は原作の犬屋敷壱郎そのものの表情を見せる。原作で描かれる犬屋敷は年齢よりも老けてみえるため、配役が決まったとき、木梨では若すぎるのではないかと感じた人もいるだろう。しかし映画冒頭、背中を丸め、弱々しく家族と接する犬屋敷は原作の彼そのものだった。彼は家族にも会社にも煙たがられる。小さな声で「すみません」と繰り返す姿は観ていて虚しくなり、家族に意見することのできない様子はとても歯がゆい。末期ガンに罹ったという事実さえも、犬屋敷は家族に伝えることができない。悔しさから涙を滲ませる木梨の演技は、原作で小刻みに震えながら涙を流す犬屋敷そのものだった。

 その後、犬屋敷は謎の事故に巻き込まれ、人ではない存在となる。彼の体に起きた異変に対峙するとき、木梨はカッと目を開き、言葉にならない声をあげながら現実を直視する犬屋敷を演じる。コミカルさもある描写だが、ただのコメディ描写におとさない絶妙なさじ加減で演技をしている。人ではない体となり、その見た目は人をも殺傷しそうなほど物騒だ。しかし身体は変われど、意識は犬屋敷のまま。妻にその姿を見られないようにしたときには、体の見た目が理由ではなく、家族に疎ましがられないようにと「家族」を基準にして行動している。その絶妙な焦りを、木梨は持ち前のコミカルさと演技力で表現しているのだ。

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