人間の存在に関わる“真のサスペンス”ーー『連続ドラマW イノセント・デイズ』が導く未体験の世界

『イノセント・デイズ』が導く未体験の世界

“人間を描く”ということ

 本作を鑑賞すると、ドラマの展開のために都合よくそれぞれの役割を持った人物を配置するだけでなく、人物の内面によってドラマが動かされなければ、そこに血が通うことはないということに気付かされる。

 以前、作品を評するときに「“人間”が描かれていない」ということを述べたところ、「それはクリシェ(陳腐な決まり文句)だ」という意味の反応を受けたことがある。しかしその意見は、私にはピンとこないところがあった。もっと言えば、「人間を描くことがクリシェ」だと言うこと自体が、逆にいまはクリシェになっているのではないかとさえ思う。

 向田邦子、山田太一、倉本聰など、日本を代表してきたようなドラマ作品を、いまあらためて鑑賞すると、そこには「人間を描く」という強い信念がみなぎっているように感じられる。しかし、大勢の脚本家によってドラマ作品が、シリーズ化され量産されていくに従って、次第に“人間を描く”こと自体が形骸化していったように思える。

 近年では、そんなつまらない人間描写なら無い方が良いと、テンポの良さや小ネタの連続によって尺を埋めていくようなドラマが新しいものだとされ、人気を集めている。しかしそれはあくまで、形骸化された人間ドラマへのカウンターとして機能しているに過ぎない。そういう変則的なドラマが注目を浴びた結果、視聴者の側も人間ドラマを評価するということが分かりづらくなっているのではないか。そのため、“人間を描く”ことが、あたかも保守的で反進歩的であるかのような誤解が生まれているように思える。だが優れた人間ドラマは、依然として必要とされているはずなのだ。

 本作が、派手な展開や分かりやすいカタルシスに重きを置かず、より複雑なものとして人間の描写に力を入れていること、そして妻夫木聡や原作者・早見和真、石川慶監督などの若い才能が、そのような作品をつくることを目指しているというのは、日本のドラマや映画の未来にとって、明るい材料である。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

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■放送情報
『連続ドラマW イノセント・デイズ』WOWOWプライムにて放送中
毎週日曜22:00~(全6話)
[第1話リピート放送]3月25日(日)8:00〜
4月14日(土)深夜0:00より1~4話 一挙放送
出演: 妻夫木聡、竹内結子、新井浩文、芳根京子 / ともさかりえ、長谷川京子 / 池内博之、山中崇、芦名星、佐津川愛美、清原果耶、田口浩正、原日出子、石橋蓮司、余貴美子 ほか
原作:早見和真『イノセント・デイズ』(新潮文庫刊)
企画:妻夫木聡、井上衛、鈴木俊明
監督:石川慶
脚本:後藤法子
音楽:窪田ミナ
プロデューサー:井上衛、橘佑香里、平部隆明
企画協力:新潮社
製作:WOWOW ホリプロ
公式サイト:http://www.wowow.co.jp/dramaw/innocentdays/

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