死にたがりの現代人へ 『アンナチュラル』が遺した“生きる”ということ

『アンナチュラル』が遺した“生きる”

 生きていれば、必ず悲劇にぶち当たる。作中で言えば、ミコトは練炭自殺の生き残り。中堂系(井浦)は、心から愛した恋人を殺された。久部六郎(窪田)も、居場所をなくした未来の見えない若者だった。悲しみや痛みに大小を測るものさしはなく、当事者にとって致命的な心の傷であればどんな事象も「死にたい」と思う理由となりうる。それでも、なぜ人は生きていくんだろうか。

 第2話「死にたがりの手紙」で、ミコトと六郎(窪田)が冷凍トラックに閉じ込められたまま水没させられたが、そのときにミコトが放った「人間は意外としぶとい」というせりふは今でも耳に残っている。同シーンで絶体絶命の状態でミコトは久部と、トラックから出た後に食べたい物を話し合っていた。

 六郎は、助かった後にミコトに絶望をしないのか尋ねる(正しくは市川実日子演じる東海林夕子が告げ口する)が、ミコトは絶望する暇があったら美味しいものを食べると言った。例え絶望の淵に立たされたとしても、食べたいものが思いついたり、会いたい人がいたりと、1秒先の未来への欲求を思いつくうちは、まだ生きているからこそできる楽しみを心のどこかで期待しているのかもしれない。

 「死を忌まわしいものにしてはいけない」と第8話「遥かなる我が家」でUDIラボの所長・神倉保夫(松重豊)は語っていたが、まさにその通りで人間というのはたまたま死んで、たまたま生き残る。近年、「その日が一番数が多いから」という理由で、9月1日だけ“子どもたちが死にたがる日”のように扱い、少年少女に無責任な「生きろ」や「逃げろ」を押し付ける大人がたくさんいるのを見てきた。

 虚無や喪失を抱えながら生きる人は365日24時間、この世から逃げ出したくて堪らない。だからこそ、1秒先の未来への欲求が重要になってくる。生きることを長いスパンで難しく考える必要はない。『アンナチュラル』のようなドラマや、映画、音楽など、たった数時間、数分でも生き延ばす力を持っている“特別”なコンテンツや、食・睡眠・遊びなど日常のの積み重ねが、いつの間にか人生になってゆく。生きるって意外と単純なのかもしれない。

(文=阿部桜子)

■放送情報
金曜ドラマ『アンナチュラル』
出演:石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、池田鉄洋、竜星涼、小笠原海(超特急)、飯尾和樹(ずん)、北村有起哉、大倉孝二、薬師丸ひろ子(特別出演)、松重豊ほか
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:新井順子(ドリマックス・テレビジョン)、植田博樹
演出:塚原あゆ子(ドリマックス・テレビジョン)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/

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