>  > 『ブラックパンサー』は何が画期的?

社会現象にまでなった『ブラックパンサー』は何が画期的だったのか? 背景にある社会状況から考察

関連タグ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 『ブラックパンサー』は、白人ヒーローの添え物的存在などでないのはもちろん、ヒーローや敵までがほぼ黒人俳優によって占められているところが特徴だ。マーティン・フリーマンが演じるCIAエージェントや、アンディ・サーキスが演じる凶悪な武器商人は例外だが、それはむしろ一般的なアメリカ娯楽映画における割合が逆転されたものだと思えばいいだろう。

 アメリカの娯楽産業において、このキャスティングの影響は様々な意味で計り知れないほど大きい。近年アカデミー賞は、ノミネートされる俳優に黒人があまりにも少ないとして、「白人ばかりのアカデミー賞」と揶揄されるなど厳しい批判を受け、受賞者を選出するアカデミー会員が入れ替えられるという事態が起こったのは記憶に新しい。また、本来の人種を差し置いて白人の俳優に役を交代させる「ホワイト・ウォッシュ」問題への批判も話題になっている。

 しかし『ブラックパンサー』の成功によって、今回ついに「ビッグタイトルには白人が必要だ」という、長年のハリウッドの大前提が、これまでにないスケールで打ち砕かれたのである。黒人の役の幅や可能性を大きく広げることになるだろう本作の成功は偉業だと見られており、もしかしたら将来、アメリカの歴史教科書で紹介されることになるのかもしれない。もちろん、それは黒人だけの問題にとどまらない。アジア系を含め、様々な人種がこの恩恵を受けるはずだ。本作は「非白人」が進出する足がかりをハリウッドに作ったといえる。

 重要なテーマとして描かれているのが、歴史的にアメリカの黒人社会が持っていたジレンマである。本作に登場した、“攻撃を受けるほどに力をためる”パンサーのスーツは、キング牧師をはじめとする、「非暴力」によって社会の差別や暴力に抵抗する黒人の結束を感じ、胸を熱くさせる。

 リー・ダニエルズ監督の『大統領の執事の涙』でフォレスト・ウィテカーが演じた大統領付きの執事や、NASAで働いて黒人の地位をアップさせた『ドリーム』の数学者のように、地道な努力によって道を切り拓く黒人もいる。しかし、警官による理不尽な射殺事件が相次ぎ、差別的な扱いから抜け出すことのできない人々が大勢いる社会では、そのような黒人の平和主義的な態度に対し不満を持つ人物が生まれることも確かであろう。その代表となっているのが、本作で王位を狙う、マイケル・B・ジョーダン演じるキルモンガーである。彼はワカンダの文明を、黒人を虐げる世界を攻撃するために使おうとする。それはあたかも、実在の黒人解放武装組織「ブラックパンサー党」の考えにも近い。

 「暴力は新たな暴力を生み続ける」、「暴力を振るえば白人と同じになってしまう」…こんな意見を出して、好戦的なキルモンガーを批判することは可能だろう。だが、いままで強い差別や暴力にさらされてきた人物に対して、そんな台詞が通用するだろうか。その理屈が有効ならば、パリの市民が圧政を打倒したフランス革命や、重い年貢の取り立てに反抗した日本の農民たちによる土一揆なども、ただのテロ行為のようなものに過ぎないということになってしまう。本作では、キルモンガーは絶対的な悪だとは描かれない。むしろ、方法は異なるが、世界をより良いものに変えたいと願うティ・チャラと鏡像関係となっているといえよう。DCコミックを原作としたTVドラマ『ブラックライトニング』も、やはり本作と同じような暴力への葛藤がテーマとなっているように、この問題はアフリカ系アメリカ人にとって、きわめて普遍的な問題である。

 アフリカ系アメリカ人に共通するのは、過去の悲しみと現在の差別問題への意識である。黒人社会や文化への尊敬と共感にあふれている本作は、「そんな我々だからこそ、誰よりも他人に優しく接し、美しい未来を示すことができる」と、優しく観客に語りかけているように感じられる。『ブラックパンサー』は、作品をヒットさせることでアメリカの白人社会の幻想を打ち壊したばかりでなく、そのラストシーンによって、新しい未来の世界の在るべき道を照らすことに成功した。そして、その未来への理想は次代の子どもたちの道しるべとなる。その意味で、本作は“ヒーロー映画”として、マーベル映画のなかで最も意義深い作品の一つになったのだと思える。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ブラックパンサー』
全国公開中
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:チャドウィック・ボーズマン、ルピタ・ニョンゴ、マイケル・B・ジョーダン、マーティン・フリーマン、アンディ・サーキス、フォレスト・ウィテカー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)Marvel Studios 2018
公式サイト:MARVEL-JAPAN.JP/blackpanther

      

「社会現象にまでなった『ブラックパンサー』は何が画期的だったのか? 背景にある社会状況から考察」のページです。の最新ニュースで映画をもっと楽しく!「リアルサウンド 映画部」は、映画・ドラマ情報とレビューの総合サイトです。

表示切替:スマートフォン版 | パソコン版