桐谷健太、“人から愛される力”を発揮! 『きみが心に棲みついた』吉崎役の魅力を読む

桐谷健太、“人から愛される力”を発揮!

「もうあんなものに、過去に怯える必要はない。みんな何かあるって、生きてたら。いろんなことがあって、ここにいる、今の小川さんが好きだから」

 吉崎(桐谷健太)が、ついにキョドコこと小川今日子(吉岡里帆)の首に巻かれたネジネジストールをほどいた。それはキョドコにとって、星名(向井理)による支配の象徴。「逃げ出したい」「卒業したい」と、10年もがき続けてきたキョドコを解放したのは、吉崎の「話したい時に、話せるようになってからでいい」という包容力だった。

 『きみが心に棲みついた』(TBS系)の第7話で印象的だったのは、“こっち側“と”そっち側“という言葉だ。キョドコのように居場所がどこにもないと感じながら育ったこっち側の人間と、吉崎のような明るい家庭で何の疑問もなく育ったそっち側の人間。星名は吉崎を「あの男みたいに恵まれた世界で順調に生きてこられたヤツに、お前のことは理解できない」と言い切る。キョドコから見れば、仕事ができて異性にもモテて顔もいい星名も、順調な人生に見えるが、星名にもキョドコが知らない“怯える過去“を持つこっち側だ。

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 父親に「そんな顔で見るな」と殴られ、友人からは「星名のくせに」といじめられた記憶の中の星名に、今の顔の面影はない。「キョドコのくせに」という口癖は、キョドコに過去の自分を投影しているのだろう。小さくて無力だったころの自分と同じように、もがき苦しむキョドコを見て、自分と同じこっち側の人間がいるという安心感を得る。バーテンダーの牧村(山岸門人)のキョドコに対する行為は“いじめ“だが、星名にとってはキョドコを傷つけることで生きるためのバランスを取ろうとする、“自傷行為“に近い感覚なのかもしれない。

 「吉崎さんだけには知られたくないんです。きっと好きが減るだけだから」。星名に言われるがまま、大学時代に男たちの前で裸になった過去を、吉崎に知られてしまったキョドコ。何があったのか、どうしてそうなったのか、どうしたらいいのか……動画を突きつけられた吉崎は、キョドコを助けたい思いが先走るあまり、矢継ぎ早に問いただしてしまう。だが、聞けば聞くほど「本当のこと言ったって分かるわけない、吉崎さんには!」とキョドコは心を閉ざし、「分かるわけないって聞いてみなきゃ分かんないだろ!」と吉崎も混乱する一方。好きだから知りたい吉崎と、好きだから知られたくないキョドコの想いは平行線を辿る。

 お互いに味方でいたいと願っているのに、すれ違ってしまう。こっち側とそっち側の壁は越えられないのだろうか……。吉崎が言う「試されることが多い」というのは、キョドコへの想いではなく、人と人とがわかり合えるのかということだろう。全く感覚の違うキョドコを理解しようとするほど、違いばかりが目につく。そんな中、元恋人の映美(中村アン)は、文学を愛するという点で、自分と吉崎が同じこっち側だとアプローチされ、吉崎に想いを寄せる後輩の為末(田中真琴)も、キョドコの動画データを切り札に、キョドコを自分たちとは違う側の人間だと遠ざけようとする。

 さらに牧村から「俺も星名もアンタが嫌いなんだよ。正義漢ぶって、きれいな生き方見せつけやがって。いい人でいられんのは、あんたがぬるく、幸せに生きてこれたからだ。目の前に悪意があったら、どこまでいい人やってられんのかな」と、悪意たっぷりの言葉を浴びせられ、いよいよそっち側の人間とどう向き合っていくべきかに直面するのだった。

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 人は当然ながら、似た経験をした人や感覚の近い人といるほうが居心地がいい。好きなものが同じ人が集まれば多幸感に包まれ、同じ傷を持つ人がお互いを支え合うように生きることもある。だが、同じような悪意を持った人同士が集まり、誰かを引きずり落とそうとすると、負の連鎖が生まれる。自分が手に入らなかったものを奪い、哀しみを誰かにぶつけて発散することは、傷が消えないどころか、周りに敵が増えていく一方だ。そして誰も信じられなくなり、自分の殻に閉じこもり、より誰かを攻撃することでしかコミュニケーションを取れなくなっていく……。

 まさに悪意が目の前に現れたとき、吉崎が取った手段は実に冷静なものだった。まずは、星名と牧村がキョドコを脅さなくなるように、誓約書にサインをさせる。星名が何をしてくるかわからないという目に見えない恐怖を、誓約書で攻撃されない安心を目に見える形にしたのだ。そして「聞くことで、無理に話すことで、余計傷つけることもあるよな」とキョドコに過去を問いただすことをやめた。知りたいのは、自分自身の欲求であり、相手が望むタイミングでなければ押し付けでしかないことを知ったのだ。同時に、その距離感は押し付けを飲み込まなければ愛されないと思いこんでいたキョドコにとって、本当の意味で居場所を得た瞬間だった。

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