齊藤工は初の長編監督作でどんな演出を見せたか? 『blank13』余韻が残る“家族の物語”

齊藤工、初長編映画の監督術

 撮影監督の早坂伸によって切り取られた、ひとつひとつのシーンがどれも印象に残る。父親が麻雀をする手元、友人が煙草の灰を落とす手つき、灰皿、雨に濡れる葉っぱ、借金取りの催促に視線を落とす父親の顔、「煙草買ってくる」と言って出て行った父親の背中……最後には父親が遺したハイライトの煙草を、不慣れな手つきで母親が吸う表情が映し出される。煙草の煙でむせ返る母親だが、その表情に夫への憎しみはない。高橋演じる次男も、葬儀の終わりには、長年蓄積していた父へのわだかまりがとれた、そんな清々しい表情を見せる。登場人物の心境や置かれている状況を、丁寧に切り取った画だけで伝えている。

 全体的にこの映画の台詞数は少ない。もちろん故人を語る後半のシーンで、友人たちは饒舌だが、父を含め、物語の主軸となる「家族」の会話は少ない。しかし役者陣による絶妙な表情の変化が、言葉を交わさなくとも「家族」のつながりを感じさせる。特に高橋演じるコウジが父と言葉を交わす時、彼の目元が伝える父の姿は、家族を捨てた父親ではなく、一緒にキャッチボールをしてくれた楽しい思い出の中の父である。

 初の長編ということもあってか、映画全体の印象はかたい。前半と後半で雰囲気が変わることに戸惑う人もいるだろう。万人に見やすい映画だとは正直思わない。しかし、齊藤工が描きたかった「家族の物語」として、不思議な余韻が残り続ける1作に仕上がっている。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■公開情報
『blank13』
全国順次公開中
監督:齊藤工
原作:はしもとこうじ
脚本:西条みつとし
音楽:金子ノブアキ
主題歌:笹川美和「家族の風景」cutting edge
スチール:LESLIE KEE
出演:高橋一生、松岡茉優、斎藤工、神野三鈴、大西利空、北藤遼、織本順吉、村上淳、神戸浩、伊藤沙莉、川瀬陽太、岡田将孝(Chim↑Pom)、くっきー(野性爆弾)、大水洋介(ラバーガール)、昼メシくん、永野、ミラクルひかる、曇天三男坊、豪起、福士誠治、大竹浩一、細田香菜、小築舞衣、田中千空、蛭子能収、杉作J太郎、波岡一喜、森田哲矢(さらば青春の光)、榊英雄、金子ノブアキ、村中玲子、リリー・フランキー、佐藤二朗ほか
配給:クロックワークス
(c)2017『blank13』製作委員会
公式サイト:http://www.blank13.com/

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