綾瀬はるか、“おとぎ話”を成立させる魅力 『今夜、ロマンス劇場で』は映画へのラブレターだ

“おとぎ話”を成立させる綾瀬はるかの魅力

 完全オリジナル作品である本作は、稲葉直人プロデューサーの10年越しの想いによって実現したもので、「映画館を舞台にした映画を作るのであれば、映画愛に溢れたものにしたい」という映画への愛が込められており、劇中ではさりげなく過去の名画へのオマージュが散りばめられている。映画に魅せられ映画監督を目指す健司と劇場館主の本多(柄本明)の関係性は『ニュー・シネマ・パラダイス』、映画の世界と現実の世界をつなぐファンタジックな設定は『キートンの探偵学入門』や『カイロの紫のバラ』、王女と身分違いの青年が恋に落ちるのは『ローマの休日』など、例を挙げ始めればキリがない。

 こういった様々な作品のオマージュを成立させるうえで、本作が取り散らかったものとならないのは、ストーリーの中心に“ベタ”という一本筋が通っているからである。結果として、綾瀬演じるモノクロのお姫様のほか、映画会社の社長令嬢・成瀬塔子(本田翼)や京映撮影所の看板スター・俊藤龍之介(北村一輝)といった、浮足立ったキャラクターたちを、物語に見事に着地させている。

 本作は、年老いて病院で過ごすことになった健司が、美雪との日々を元に書いた脚本を若い看護師に読みかせる回想録という形を取って進んでいく。しかし健司はその脚本を何十年も完成できずにいた。看護師の希望で健司は一念発起し、脚本を完結させるのだが、そこに描かれたものは健司と美雪の顛末とはまた異なる、新たな可能性の提示であった。

 荒唐無稽なおとぎ話であったかもしれないが、それは映画への賛美に感じた。劇中、脚本に悩む健司に対し、ロマンス劇場館主・本多は「浮浪者、紳士、詩人、夢想家、孤独な人、みんなロマンスと冒険に憧れているんだ」とチャップリンの言葉を引用する。物語というものは、新たな人生を創造することであり、その創造性は誰にも奪われない。製作者の情熱が、創造性という翼を借り、世に出回る。だから観客に幸せや喜びを共有することのできる、熱烈な映画へのラブレターを本作は描いている。最後にもう一度本多の言葉を借りよう。「どんな映画も誰かを幸せにしたくて生まれてきた」のだ。

(文=安田周平)

■公開情報
『今夜、ロマンス劇場で』
公開中
監督:武内英樹
脚本:宇山佳佑
音楽:住友紀人
主題歌:シェネル「奇跡」(ユニバーサル ミュージック)
キャスト:綾瀬はるか、坂口健太郎、本田翼、北村一輝、中尾明慶、石橋杏奈、西岡德馬、柄本明、加藤剛
制作プロダクション:フィルムメイカーズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 映画「今夜、ロマンス劇場で」製作委員会
公式サイト:romance-gekijo.jp

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