『マンハント』はあらゆる面で怪作! ジョン・ウー、アクション映画への帰還を読む

ジョン・ウー『マンハント』に感じる予感

 ジョン・ウーの新作『マンハント』は無実の罪を着せられた弁護士(チャン・ハンユー)と、彼を追いかける刑事(福山雅治)の追跡劇を描いたサスペンス・アクションだ。

 ジョン・ウーと言えばガン・アクション。ガン・アクションと言えばジョン・ウーだ。90~00年代、ウーさんはスローモーションと二丁拳銃、そして言わずと知れた白い鳩をトレードマークに、アクション映画の傑作・怪作を立て続けに発表した。銃で何発撃たれようが、気持ちが強ければ死なない。どれだけ銃を撃ちまくろうが、任意のタイミングまで弾切れはしない。そんなファンタジックなスタイルから、いつしか “バイオレンスの詩人”と呼ばれ、業界の頂点に君臨していたのである。もちろん後輩たちへの影響も大きく、たとえば『リベリオン』(02年)や、近年だと『キングスマン』(14年)のアクロバットな銃撃戦は、彼の影響下にあると言っていいだろう。

 そんなウーさんであるが、近年は得意のガン・アクションを封印。歴史超大作を手掛けるなど、やや丸くなっていた感があった。ウーさんも御年71歳。さすがにイイ歳であるし、監督としても落ち着く頃か――と思ったら、とんでもない形でウーさんはアクション映画業界へ帰ってきた。それが本作『マンハント』である。端的に言うなら荒唐無稽の極み、ウーさんのキャリアでも屈指の大迷作だ。元からウーさんは物語の整合性やリアリティよりも、「その瞬間の気持ちよさ」を優先するタイプだが、本作ではその傾向がさらに加速している。しかも、そういう刹那的なスタイルで複雑な陰謀劇を描いているので、途中から何の話をしているのか分からなくなる瞬間が多々あった。

 ストーリーは穴だらけでボコボコだが、その穴を補うのが伝家の宝刀“ジョン・ウー節”である。二丁拳銃、日本刀、水上チェイスと、かつてウーさんの映画で見たアクションが、これでもかと詰め込まれている。白い鳩に至っては、わざわざ鳩を飛ばす前に「レストラン 鳩の里」という謎の看板を出し、「この後に鳩が飛びますよ」と前振りまでしてくる。吉本新喜劇を彷彿とさせるコテコテっぷりだ(そう言えば本作の舞台は大阪だ)。

 しかし、こうしたセルフ・パロディ的な要素の一方で、今までのウーさん映画ではあまり見られなかった新しい要素もある。それは女性キャラクターの描写だ。ウーさん映画と言えば男性同士の熱い友情が主題だった(もちろん『狼 男たちの挽歌・最終章』(89年)のような男女間の関係がメインの映画もあるが)。『マンハント』も福山雅治×チャン・ハンユーによる“男の友情”劇はあるが、それと同じくらいの熱量で、ハ・ジウォンとアンジェルス・ウー演じる女殺し屋コンビの友情が描かれる。ハ・ジウォンの取って付けたような恋愛要素はさておき、2人の“女の友情”は確かに輝いていた。これはウーさんの新境地か、あるいは単にアンジェルス・ウーが自分の娘だから目立たせたかったのか、真相は分からない。ただ、ウーさんは次にハリウッドで女殺し屋の映画を作るらしい。このことを踏まえてみると、本作の“女の友情”はその前哨戦とも思えてくる。セルフ・パロディに見えた数々の要素も、しばらくアクション映画から離れていたウーさんが「こういう感じだっけ?」と感覚を取り戻すための、いわば肩慣らしだったのかもしれない。

 本作は粗が多い映画だ。ウーさん好き以外には意味不明なシーンも多い(前述の「鳩の里」はその究極だ)。しかし、ウーという男を知っているなら、彼が今もなおこういう映画を撮れること、そしてアクション映画への帰還に備え、準備運動を始めていることを予感するだろう。孫氏曰く、「敵を知り己を知れば、百戦して危うからず」本作はウーさんが自身のスタイルと、アクション映画というジャンルを再確認しようとしている習作であり、期待と心配が半々ながら、次回作へ期待を繋ぐ作品だ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる