『ゆれる人魚』監督が語る、人魚と初恋の関係性 「人魚だからこそ表せる人間の心理」

『ゆれる人魚』監督インタビュー

 「すべてが“初めてのこと”も重要なポイント」

――妹のゴールデンたちの静止を聞かずに、シルバーが魚の部分である下半身を切って人間の足にするシーンなど、彼のためなら何を失っても構わない、周りの声も届かない盲目さが、とてもリアルだなと感じました。

スモチンスカ:誰かを愛しすぎるあまり、自己犠牲ともいえる行動を取ってしまう人は少なくないのではないでしょうか。特に、それが初恋にもなると余計に。それを視覚化しているからこそ、あのシーンでは初恋を経験した誰もが感情を刺激されます。これは男性も分かるはずです。あなたは、初恋を思い出しましたか?

――はい、思い出しました。

スモチンスカ:初恋は成就しました?

――私の初恋もまさにシルバーのような感じでした。でも、シルバーと違うのは、私だったら相手を想って自分が消えるのではなく、彼を食い殺してしまうなと思いました。

スモチンスカ:なるほど。たぶん、食い殺したいというのは、怒りの感情からなのではないでしょうか? あのときのシルバーの感情というのは、怒りとかそういうものよりも、もっと深くて暗いもの、絶望や諦めとか言葉では表現できないほどの想いだったのではないかなと。唯一無二の存在であるミーテクに裏切られたことで、自分の世界と人生は終わったと彼女は感じてしまっていて、それに彼との幸せだった想い出も相まって生じた深い感情が、彼女をああいう行動に走らせたのだと思います。

アグニェシュカ・スモチンスカ監督

――シルバーとゴールデンがパフォーマンスをするナイトクラブ“ダンシング・レストラン”など、監督自身の経験も反映されているとのことですが、“初恋”という面においても自身の過去と重ねているのでしょうか?

スモチンスカ:もちろん! 最初の彼氏と別れたときは、本当に世界が消えてなくなるのではないかというくらい泣いたのをよく覚えています。初めてのタバコ、お酒、それからファーストキス……私たちにとって初めての何かというのは、特別な記憶です。この映画の中では、すべてが“初めてのこと”として描かれていて、実はそれが重要なポイントなのです。それを体現できるのは“人魚”だからこそ。初めての世界に足を踏み入れ、初めて誰かを愛し、初めて誰かを失って……私たちもそれらをすべて経験しているからこそ、人魚たちを通して、そのときのインパクトが鮮明に蘇り、懐かしさを感じるのです。

(取材・文=戸塚安友奈/写真=石井達也)

■公開情報
『ゆれる人魚』
新宿シネマカリテほかにて公開中
監督:アグニェシュカ・スモチンスカ
出演:キンガ・プレイス、ミハリーナ・オルシャンスカ、マルタ・マズレク、ヤーコブ・ジェルシャル、アンジェイ・コノプカ
提供:ハピネット
配給:コピアポア・フィルム
2015年/ポーランド/ポーランド語/カラー/DCP/92分
(c)2015WFDIF, TELEWIZJA POLSKA S.A, PLATIGE IMAGE
公式サイト:www.yureru-ningyo.jp

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