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“普通”からはみ出してしまった人々に希望はあるのか? 『anone』が描く本物とニセモノ

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 『anone』はあまりに残酷で、優しすぎる。だが、ジャンル分けしやすい明快な「わかりやすさ」が求められる現代において思わず当惑してしまうほど独特な世界観、過酷にもほどがある登場人物たちの人生と不器用な優しさは、じわりじわりと絡まって、視聴者の心にようやく馴染みはじめた。

 坂元裕二脚本、水田伸生演出のドラマ『anone』も4話を過ぎた。率直に言えば、万人受けする物語だとは言えないだろう。このドラマの愛すべきはみだし者たちは、「聞き取れませんでした」と何度もインターフォンの無機質な声に拒まれ続けるように、すんなりとは前に進めない。いろんな偶然とそれぞれの思いが折り重なってニセ札争奪戦から空き巣に身代金誘拐、拳銃自殺に本物の1000万円すり替えと何者かによるその強奪。誰が加害者で誰が被害者なのかよくわからなくなるほど目まぐるしい、お金を巡る事件の中で、自分の悲劇を一旦脇に置いて他人の悲劇に感情移入してばかりの彼らは、「猫の流し目」に気をとられでもしない限り、タイミングがいくらあったとしても逃げ出すことができずに、おずおずと笑っている。

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 ゆっくりと、だがものすごくパンチの効いた登場人物たちの自己紹介が終わり、ついに、「本物の家族」たちにことごとく愛されない、優しすぎる彼らの「ニセモノの家族」の物語が幕を開けようとしている。

 先週放送の4話での田中裕子演じる亜乃音と、江口のりこ演じる絶縁状態の娘・玲の息子・陽人(守永伊吹)との会話が印象的だ。おじいちゃんがくれた「1億円」を落としたと言って探している彼もまた、このニセモノのお金を巡る物語の一員である。「ダメ人間なんだよ」「普通は落とさないでしょ」と彼は自分のことを言う。それは恐らく、社会不適合者、「ハズレ」と言われた幼い頃のハリカ(広瀬すず)のように、周囲の子供たちに早々にレッテル付けされてきたからだろう。「落し物したら探すことができるでしょう。探しものしたらもっと面白いもの見つかるかも」「わかる、探すのって楽しいよね」という亜乃音・陽人2人のやりとりは救いであり、もしかしたらこの物語の根幹と言えるのかもしれない。

 この場面が、次の持本(阿部サダヲ)とハリカに対する小林聡美演じるるい子の告白への布石となる。彼女の思いとは裏腹に思いやりのない非情でわがままな性格に育った息子・樹(武藤潤)とうまくいかないるい子は、この世に生まれてくることなく死んでしまった最初の子供の幽霊アオバ(蒔田彩珠)と共に生きていた。「生きている子供に愛されないから、死んだ子供を愛している。それって人間としてダメですよね」と吐露するが、これも「妻として母として役目を全うする」ことこそ正しく、どんな子供だったとしても母親は無条件に子供を愛さなければならないという暗黙の世間のルールのようなものに対して、そのルールから逸脱せずにはいられなかった彼女の葛藤を示しているものであると言える。幽霊のアオバに対し「この子が本当に生まれていたらよかったのに」と想像してしまうことは、今の子供が生まれていない未来を想像し、否定することに他ならないからだ。

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 るい子はいつも変わらず彼女の人生に寄り添ってきたアオバのことを「鼻」のような存在と例える。彼女の身体の一部、分身であり、意識しないと見えないけれど、一旦見えるとやたら視界に入ってくる存在という意味だ。一方、現実世界における「花」もまた彼女の人生の高揚と哀しみに寄り添っている。アオバが生まれた病室では1輪、子供が生まれたばかりの幸せの絶頂の時期は色とりどりのたくさんの花、アオバとの2人きりのアパートでもさりげなく花瓶に花が数本生けられている。そして結局は一緒に食事することも叶わなかった息子との最後の夕食を彩るテーブルでは、彼女が自ら持ち寄った花束が息子によって、おざなりに花瓶に突っ込まれる。るい子が大切にし続けた花のある暮らしは、語られることがないまでも、その人となりを思わせる。正しく平穏に生きようとした彼女は、理不尽な「女らしく」「男らしく」という世間が形作るニセモノの正しさに迫害され、現実世界に居場所をなくすしかなかったのだ。

      

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