町山智浩がホラー映画『RAW~少女のめざめ~』を語る 失神者続出の真相も

町山智浩が語る『RAW』

 2月2日、都内にて映画『RAW~少女のめざめ~』の公開記念トークショーが行われ、映画評論家の町山智浩が、観客からの質問に答えながら、本作について解説を交えて語った。(以下、ネタバレあり)

 本作は、大学に入学した厳格なベジタリアンの主人公ジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)が、上級生による“新入生しごき”で初めて肉を口にしたことを契機に、カニバリズムに目覚めていくというフランス発のホラー映画。海外で開かれた映画祭では、吐き気を催したり、失神したりする観客が現れたと話題になっていた。

 町山はその場に居合わせていなかったと言うが、途中退席者が出たのはトロント国際映画祭で行われた、ホラー映画だけを上映する深夜回のことだったそう。ジュスティーヌが姉アレックス(エラ・ルンプフ)の指を食べるシーンの直前で観客が出ていってしまったらしく、「『セブン』の生首とか、『スカーフェイス』の電動のこぎり腕切断と同じで、本当に失神する人はそのシーンにいく直前で(失神して)いきますから!」と残酷描写が苦手な人は、シーンを見ずに倒れてしまうことが多いと話す。

 また、実はこの作品、ホラー映画にする予定はなかったそう。デュクルノー監督は、本作を撮る前にマリリエ主演で短編映画『Junior(原題)』を製作しており、こちらは“初潮”に焦点を当てた甘酸っぱい物語になっている。その短編を基に、少女が性に目覚めていく様子をよりリアルに展開させたのが本作だという。町山によれば、女性は子供を産む能力が備わる際、ものすごく違和感を覚え、自分自身が得体の知れない者に変形していく感覚があるとデュクルノー監督が明かしていたそう。「それを映像で表現するためにホラー的な表現になった」と、本作の主軸はあくまでも“少女の目覚め"にあることを語った。

町山智浩

 赤ちゃんのむちむちした腕や足を「食べちゃいたい」と親が思うように、“好きな人を噛む"という行為は1つの愛情表現で誰しもが持つ欲求だと語る町山。しかしなぜこの映画が普通の愛情ではないかというと、「食べられても良いよ」という側の気持ちがポイントになってくるという。好きな人のために自分が犠牲になるというのは、並大抵の愛では実現できない行為だ。

 最後に、もしこの映画が好きであれば、大島渚監督の『愛のコリーダ』を観るといいと町山は勧めた。 本作は、恋人の性器を切り落とした阿部定事件を題材にした作品で、藤竜也演じる吉蔵が、定(松田暎子)の要求をすべて承諾し、最終的には殺されてしまうという内容だ。

 世界的に有名になった事件なため、「吉蔵は、よっぽど立派な“もの”を持っていたに違いない」と憶測が飛び交っていたそうだが、定自身は吉蔵を好きになった理由はそこではないと否定しているらしい。大島が『愛のコリーダ』をつくるにあたって判明した、“定が吉蔵を好きな理由”が劇中の吉蔵のキャラクターに反映されていると町山は語り、定は吉蔵がなんでも受け入れるところに惚れていたのだという。町山は『愛のコリーダ』を踏まえて、「食べられてもいい気持ちは、セックスや恋愛を超えた、大きな愛なんだ。まさか、そんな結末に(『RAW~少女のめざめ~』が)持ってくるとは思いませんよね」と、本作がまさかの感動作であったことへの驚きで締めくくった。

(取材・文=阿部桜子)

■公開情報
『RAW〜少女のめざめ〜』
TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて公開中
監督・脚本:ジュリア・デュクルノー
出演:ギャランス・マリリエ、エラ・ルンプフ、ラバ・ナイト・ウフェラ
ユニバーサル映画
配給:パルコ
原題:『GRAVE』/英題『RAW』/2016年/フランス・ベルギー/98分/カラー/音声:5.1ch/R15
(c)2016 Petit Film, ouge International, FraKas Productions. ALL IGH E E VED
公式サイト:raw-movie.jp

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