『カルテット』と対極の作品に? 広瀬すず主演ドラマ『anone』に漂う、悲しい“諦め”

『anone』は『カルテット』と対極?

 ネットカフェで暮らすハリカと女の子たち、そしてカレー屋の店主・持本と青羽るい子がドタバタと争奪戦を繰り広げる、テトラポットの隙間に隠された大量のお札は、持ち主である田中裕子演じる林田亜乃音が必死で奪い返したり交換したりすることからして本物ではないのだろう。彼らがお金に執着するのは、差し歯のため、留学のため、カノンの医療費のため、さらには救いのない自分の人生へのせめてもの「幸運」のためといったところだ。

 信じられるのは気休めの名言、本物の家族、友達、奇跡ではなく、自分で作り変えたニセモノの過去という夢とニセモノのお金だけ。それがこの『anone』の世界だ。

 量産もののクッキーの中の形違いの1個をハズレと言うのかアタリと言うのか。『カルテット』の世界なら、彼らはそれを「アタリ」と言っただろう。ではこの生きづらい現代社会を生きる人々は何と言うのか。「あのね」と言っても聞いてもらえず、社会不適合者、病気とレッテルを貼られ否定され続けた女の子は、自ら「ハズレ」と名乗ってひっそりと生きている。

 夢と嘘、そしてテトラポット。『カルテット』を語る時と同じフレーズを使っているのに、2つのドラマは対極の位置にある。この物語は、『カルテット』の彼らが、さらにはその世界を愛していた視聴者が、「見たくない」と思っていた側の物語なのかもしれない。

 「ちょっと、この店って明るすぎません?」と小林聡美が言う。床下の大金を見つけた田中裕子の家で電球がパチンと切れる。ぼんやりと月の光が照らすように、タイトル『anone』が浮かび上がる。彼らが見つめた流れ星を、私たちが住む世界では、明るすぎて滅多に見ることができない。

 闇だからこそ、見える光がある。このドラマはきっと、そんなドラマだ。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『anone』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:広瀬すず、田中裕子、瑛太、小林聡美、阿部サダヲ、火野正平ほか
脚本:坂元裕二
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚
制作協力:ザ・ワークス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/anone/

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