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『孤独のグルメ』はなぜ中毒性があるのか? 松重豊演じる井之頭五郎像の絶妙な変化

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 美味しそうな顔または声というものがある。例えば、ドラマ『みをつくし料理帖』(NHK)の小日向文世が美味しい食べ物を口に入れた時の「こいつはいけねーよ」とほどけるように笑う顔、朝ドラ『わろてんか』(NHK)の笹野高史の落語「時うどん」。ドラマ『この声をきみに』(NHK)の杉本哲太の朗読による「立ち食いそば屋の天ぷらそば」。そしてなによりも美味しそうな顔ナンバー1は、「こいつはいけねーよ」と思いながらついつい深夜に見てしまう「松重豊の顔」ではないだろうか。

 今年の大晦日は、紅白やガキ使という恒例番組以外にもう1つ、強力な番組がある。テレビ東京が放つ『孤独のグルメ大晦日スペシャル~食べ納め!瀬戸内出張編~』だ。これは強烈な誘惑である。

 なぜ『孤独のグルメ』はこんなに見ずにはいられない存在であり続けるのか。飯テロドラマは『孤独のグルメ』以降数多く誕生したが、やはり元祖に勝るものはない。その中毒性を解明したい。

 少しシーズンをさかのぼるが、シーズン4の8話『杉並区阿佐ヶ谷のオックステールスープとアサイーボウル』には特別な思い入れがある。夏、駄菓子屋の10円ゲームに夢中になったり、仕事でビリヤード場に行ったりした井之頭五郎はハワイ好きで調子のいい寺島進としっかり者の奥さん・堀内敬子がお店を切り盛りしているお店「ヨーホーズカフェ」に訪れる。そこでモチコチキンや山のようにのせるショウガと手づかみで食べるテールが印象的なオックステールスープを堪能するのであるが、夏ではなく雪がチラホラ降る冬、猫が寒そうに空を見つめている夕暮れ、1人都会の寒さに本当に手を震わせていたおのぼりさんの私が、五郎さんのマネをして「ヨーホーズカフェ」を訪ねたのである。いわゆる「聖地巡礼」だ。

 開店前のお店にそうと気づかず勝手に入りこんでしまうというハプニングに激しく動揺し怯えながらも、ちょっと寺島進に雰囲気が似たご主人と奥さんのイメージそのままの掛け合いをしっかり目撃し、ドキドキしながら「オックステールスープ」を注文する。奥さんから食べ方の説明を受け、ちょっとだけショウガを入れたら、「もっともっと」と言われ、グズグズしていたら最終的に器を取り上げられ、大量に盛ってもらい、それを恐る恐る口にする。

 味は言うまでもない。食わず嫌いだったショウガはとても美味しく、最終的には五郎さんと同じようにショウガを大量に追加し、寒さで震えていた手でテールを鷲づかみにし、夢中で食べ尽くした。凍えていた心は、スープの温かさと、1人旅で「孤独のグルメ」探訪というもの珍しさを笑いながら話し相手になってくれたご主人の優しさでホカホカと温まり、それだけで幸せな旅となった。

 『孤独のグルメ』に出てくるお店の料理がどれも美味しそうなのは、その料理の魅力だけではない。五郎の目から見た味のある町の風景、大衆食堂だったり主人の個性を反映した小洒落た店だったり、ドライブインだったり商店街の一角や屋台だったりするお店の雰囲気、そして、お店の人の優しさが伝わってくるからだ。何十年も続くお店の、常連客の発案でできた意表をつくメニューがチラホラ出てくるのも特徴の1つだろう。シーズン1の初回放送「江東区 門前仲町のやきとりと焼きめし」で女主人が五郎を置いて隣の酒屋にウーロン茶をとりにいくという、小津安二郎の映画でも想像してしまうような暖かさがそこにある。

      

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