『ビジランテ』は入江悠の次の10年を予感させるーー逃れられない地方都市の“郷愁”と“断絶”

『ビジランテ』が描く地方都市の郷愁と断絶

 90年代の日本映画では、日本人と外国人労働者との対立を描く作品は少なくなかった。岩井俊二の『スワロウテイル』(96年)や、公開は後になったが園子温の『BAD FILM』(12年)など現在を予感させる作品が作られていたが、そこで描かれていたことが現実になってみると、それを正面から描いたのは富田克也の『サウダーヂ』(11年)など数えるほどしかない。『ビジランテ』では、吉村界人が演じる若者が自警団に加入してくる。SNSで外国人犯罪へ憤りを覚えたという彼は、外国人居住地区で早速トラブルを起こし、それが更なる復讐を招く。吉村界人は今、出て来るだけで何かをやってくれそうな存在だ。『太陽を掴め』(16年)の自暴自棄な苛立ちを隠しきれない主役から、『牝猫たち』(17年)では風俗店の女性たちを盗撮する運転手役という脇役を巧みに演じきっていたが、主演でも助演でも唯一無二の存在感を際立たせるだけに、本作でも吉村界人のパートは屈指の濃密さで描かれる。

 本作は群像劇ではあるが、均等に各人物を描いているわけではない。もちろん脚本としては過不足なく書かれているが、俳優の熱量がそうしたバランスを良い形で崩していく。これまで映画に恵まれていたとは言えなかった篠田麻里子の闇を抱えた暗躍ぶりも堂々たるものだが、前述の吉村界人も役を何倍も大きく膨らませてみせる。長男・一郎役の大森南朋は、その気になればワンマンショー的に全篇をさらってしまうことも出来る強烈な役だが、あえて一歩引くことで三男の桐谷健太を受け止めて見せる。『火花』(17年)に続いて主演としての圧倒的な熱量を放出してみせる桐谷は、ゴジラのような父の血を最も濃く引く〈怪獣・ビジランテ〉となって地方都市で咆哮を響かせる。こうしたキャスティングへの自由度も含め、『ビジランテ』は入江映画の次の十年を予感させてくれる。 

■モルモット吉田
1978年生まれ。映画評論家。「シナリオ」「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿。

■公開情報
『ビジランテ』
12月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
出演:大森南朋、鈴木浩、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、菅田俊
脚本・監督:入江悠
音楽:海田庄吾
配給:東京テアトル
2017年/日本/カラー/125分/R15+
(c)2017「ビジランテ」製作委員会
公式サイト:http://vigilante-movie.com

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