傑作『ザ・フォッグ』が教えてくれる、ホラー映画を語る上でジョン・カーペンターが特別な理由

宇野維正の『ザ・フォッグ』レビュー

 スプラッター以前(あるいはクラシック・ホラー)と以降(あるいはモダン・ホラー)のホラー映画を分かつポイントの一つは、恐怖の対象に感情移入ができるかどうかというところなのではないか(もちろん、どちらの方が優れているという意味ではない)。例えば、80年代ホラーのリバイバル的側面を持つドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス』も、あるいは今年大ヒットした『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』も、恐怖の対象が絶対的な他者として描かれている点において、やはりモダン・ホラーの範疇に属する作品と言っていい。そんな「新たなホラー全盛期」に再見する『ザ・フォッグ』は、その詩情、つまり「得体の知れない者たち」が抱える歴史的背景、怨念、そして悲しみにおいて、やはり格別の趣を持っている。そしてそれは、カーペンターの影響下にある世界中のホラー映画作家たちのほとんどの作品にはない、今もなお特別なものである。

 今回のブルーレイ作品『ザ・フォッグ《最終盤》』の特典ディスクには、本作の撮影監督ディーン・カンディ(『ゴースト・ハンターズ』までカーペンターの右腕を務めたのち、ヒットメイカーとなったロバート・ゼメキスのパートナーとなり、『フック』や『ジュラシック・パーク』ではスピルバーグと、『アポロ13』ではロン・ハワードと組むようになることを思うと、なかなか感慨深いものがある)の回顧インタビュー、撮影当時のカーペンターやスタッフらのインタビュー、さらにはサンフランシスコ近郊で撮影された『ザ・フォッグ』の聖地巡礼特集など、貴重な映像が満載。ホラー・クラシックとして歴史的に重要な作品であることは言うまでもなく、80年代以降のアメリカ映画を語る上で欠かすことのできない正真正銘の傑作にして一つの大きなターニングポイントでもある『ザ・フォッグ』。もし未見の方は、是非この機会に手にとってもらいたい。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「文春オンライン」「Yahoo!」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。Twitter

■作品情報
第9弾『ザ・フォッグ≪最終盤≫』
11月8日発売
価格:10,000円+税(Blu-ray2枚組/KIXF-502〜3)
発売・販売元:キングレコード
本編:約99分+映像特典尺(未定)ブックレット32P封入
※通常盤・単品ブルーレイ(KIXF-504)4,800円(本編DISCのみ)
本編DISC『ザ・フォッグ』(本編99分)
本編収録※オリジナル音声はリニアPCMで収録
音声特典:1日本語吹替(1991年テレビ朝日日曜洋画劇場放送)
2バタリアンズ・山口雄大監督×井口昇監督によるオーディオコメンタリー
原題:「TheFog」/1980年/アメリカ映画/99分
【特典DISC】(特典映像)
・Dean of Darkness with Dean Cundey
・Fear on Film:Inside The Fog
・Tales from the Mist:Inside The Fog
・Horror's Hallowed Grounds
・アウトテイクス
・オリジナル予告編
・フォトギャラリー
※特典映像は収録が変更になる場合あり。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる