『奥様は、取り扱い注意』で新しい作風を確立 脚本家・金城一紀の作家性を読み解く

『奥様は~』脚本家・金城一紀の独自性

 『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)が、明日12月6日に最終回を迎える。日本テレビ系水曜夜10時という女性向けドラマ枠で放送されている本作は、主演こそ『ホタルノヒカリ』や『きょうは会社休みます。』の綾瀬はるかという、この枠の看板女優だが、彼女が演じるのが、かつて某国の諜報部員だったが今は主婦として暮らす女性・伊佐山菜美で、彼女が町内で起こる事件を格闘術で解決していく話になると知った時は、どういう話になるのか? まったく想像ができなかった。

 ましてや脚本が金城一紀だと知った時は「えぇ?」と驚いた。金城一紀は直木賞を受賞した『GO』(講談社)で知られる小説家で、『SP』、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(ともにフジテレビ系)、『BORDER』(テレビ朝日系)といったテレビドラマの脚本でも知られている。作品数こそ少ないが一つの作品世界をじっくりと作り込んだものを打ち出してくる作家で、『奥様は、取り扱い注意』は、今までの作品歴から考えると、ものすごく浮いている。

 印象としては水曜ドラマという今までとは違う視聴者がいる世界に、金城一紀が入っていったという感じだろう。ただ、その時に放送枠のカラーに完全に合わせるのではなく、金城のカラーをちゃんと持ち込んでいる。

 金城のカラーとは何か。それは、ポリティカル・フィクションをアクション活劇で見せるということだ。ポリティカル・フィクションとは政治的な題材を扱う物語だが、在日コリアンの高校生を主人公にした『GO』を筆頭に、金城は自分たちの周囲を取り巻いている政治的状況に対してとても自覚的な作家である。そういった政治的背景を、説教臭くならずに、あくまでエンターテインメントの枠組みの中で描けるのが金城の独自性で、政治的な題材があまり好まれない日本のテレビドラマでは、とても貴重な存在だと言える。

 とはいえ、例えば『CRISIS』で描かれたような国家とテロリズムの問題は、どうしても視聴者を選んでしまうところがある。今回は普段、金城のドラマを見るような層とは違う、働く女性や主婦に向けて作らないといけない。そう考えた時に出てきた、視聴者と共有できるポリティカルな話題が、本作で描かれている男社会における女性差別の問題だったのだろう。

 これは金城一紀だけの問題意識ではなく、例えば坂元裕二が2015年に手掛けた『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)や現在放送中の宮藤官九郎の『監獄のお姫さま』(TBS系)にも共有されているものだ。

 そもそも、トレンディドラマ以降のテレビドラマは働く女性の仕事と恋愛を描いてきたのだが、その背景には1986年に施行された男女雇用機会均等法があった。テレビドラマが、社会に出た女性たちの応援歌として機能してきたのだ。そのため恋と仕事という華やかなものを描いていても、その背後には女性が社会に出た時に衝突する男社会というものがあった。

 物語は毎回、夫のDVや過去に出演したAVのことで脅迫されるといった、様々な困難を抱えている女性がいて、彼女たちを苦しめるクズ男を伊佐山菜美(綾瀬はるか)が得意の格闘術で成敗するという完全懲悪モノである。一話完結でとても見やすくて爽快だとも言えるが、女が被害者で男は全員クズという割り切りがしっかりしているため、当初はかなり安直だなぁと思った。

 しかし物語後半から、伊佐山菜美の友人である二人の主婦との友情や、西島秀俊が演じる菜美の夫・勇輝が実は、菜美を監視する謎の組織の一員であることが明らかになってくる。つまり、菜美を中心とした群像劇と、彼女を監視する勇輝の正体をめぐるミステリーへと物語が変化しているのだ。

 個人的には菜美たちを苦しめる男社会が、どんどん悪の組織みたいな、悪役のための悪役になってきているのが残念だが、良くも悪くもエンターテインメントとして割り切っているのだろう。これは金城のドラマに共通する残念な部分だ。ただ、それでも金城の作品を嫌いになれないのは、彼が辛い境遇ゆえに強くならないといけなかった人間だけが持つ、強者の孤独を描き続けているからだ。

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