柴咲コウと菅田将暉、対立する2人の考え方 『おんな城主 直虎』直虎の半生を振り返る

柴咲コウと菅田将暉、対立する2人の考え方

 ついに大河ドラマ『おんな城主 直虎』は残すところ5話となった。「潰れた家の子」、「色小姓」と謗り笑う人々を、もろ肌を脱ぎ武功の証を見せつけることで制し、菅田将暉演じる万千代(後の井伊直政)の華々しく勢いのある出世街道は磐石のものになってきた。そんな万千代の姿は、徳川家の人々だけでなく、これまでの展開を知らない視聴者含め、多くの視聴者を惹きつけ、夢中にさせるものであるように感じる。

 だが、どこか寂しさを感じている視聴者もいるのではないだろうか。心配のあまり、万千代の行動に釘を刺してばかりの柴咲コウ演じる直虎と、彼女を「いじわるばばあ」扱いする万千代の姿に。タイトルである『おんな城主 直虎」はどこに行ってしまったのかと。

 直虎の人生は一貫して、“竜宮小僧”としての人生であった。竜宮小僧とは、困った時に人知れず助けてくれる存在として、井伊谷の人々に愛されている伝説上の存在だ。

 第1話で示された竜宮小僧、そして井伊の「ご初代さま」と井戸にまつわる物語は、その謎を無邪気に追いかけていた後の直親(三浦春馬)、政次(高橋一生)、直虎3人の人生に大きな影響を与えた。直虎はまさに竜宮小僧、仲間を増やしていくことで井伊谷を作ったご初代さまそのままの人生を送っていくことになる。

 幼少期、彼女は身体の弱い許婚(直親)の手足となって動こうと思ったために、彼の「竜宮小僧」になることを誓った。直親と引き離された後も、彼女は村人たちの畑仕事をこっそりと手助けするなど、村人たちの竜宮小僧であり続けた。直親が帰ってきた後は、直親の妻に疎まれるほどに竜宮小僧として直親のために奔走した。その後城主になってからの、歯向かっていた百姓や商人、盗賊たちを仲間として引き入れ、教育や商業を充実させることで自発的に人が増え、土地が豊かになっていくという彼女の手法は、井伊のご初代さまのあり方と重なる。

 だが、一度だけ彼女は、竜宮小僧としての人生を手放そうとしたことがある。それが、史実には登場しないオリジナルキャラクターである柳楽優弥演じる龍雲丸とのエピソードだ。彼は彼女をつかのま自由にするために存在した。大河ドラマの主人公があろうことかタイトルである『おんな城主 直虎』としての役割を放棄し、架空の人物との幸せな夫婦生活を送ろうとするという、政次の死後から虎松の登場までの数話は意表をついたが、今思えば、この龍雲丸の存在はとても効果的だったと言えるだろう。

 彼は戦さや政、土地とは一切関係ない稀有な存在として、直虎の生き方を客観的に照らし出す役割を持っていた。「竜宮小僧」として人のために生きることを当然だと思っている彼女の生き方に疑問を投げかけ、揺さぶりをかけることで、彼女自身にその人生の意味を問いかけさせた。そして彼女は、自由の象徴のような龍雲丸から背を向け、竜宮小僧のように土地のため、人々のために生きる人生を自ら選ぶのである。表立って上に立つのではなくあくまで民の一人として暮らしながらも、領主である近藤康用(橋本じゅん)を上手に操ることで井伊谷を治め、人々の生活を豊かにしている彼女の現在のあり方は、これまでにもまして竜宮小僧的であると言える。

 そして直虎は今、積み上げたものを何度も奪われ、それでもまた築きあげた安穏の地・井伊谷で、彼女の夢である、人々が「奪い合わずとも生きられる世」の実現のために生きている。

 一方、井伊谷で静かに暮らす直虎とは対極の万千代である。彼は、守ると誓った対象である「家」を幼い頃に失い、自分が潰したわけでもないのに「潰れた家の子」と謗られる悔しさを原動力として動き出した新世代だ。直虎と万千代、それぞれの考え方は正反対だが、それぞれの人生・立場によって培った確固たる意志のため、どちらが間違っているというわけではなく、対立せざるを得ない状況なのである。

 44話での直虎と万千代の会話は、家のため地位のために突き進む万千代と、土地のため人のために突き進むのではなく守ろうとする直虎という2人の考え方の違いを如実に示していた。「井伊のものであったものを井伊が取り戻して何が悪い」と言い、武家としての力の証としてしか土地のことを考えることのできない万千代は、勢いはあっても、まだ直虎から家督を譲り受ける器であるとは言えない。憎しみを蒸し返し、プライドのために近藤から井伊谷を無理やり奪い返したところで、それはまた、新たな争いを招く火種にしかならない。再び井伊谷を戦いに巻き込みたくない。頑なにも見える直虎の態度は、これまでの彼女の歩みと井伊谷への思いゆえである。

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