菅田将暉は“バカと天才は紙一重”を体現できる俳優だーー『おんな城主 直虎』虎松役の魅力

 菅田将暉が注目をされたのは『仮面ライダーW』で天才少年・フィリップを演じたことがきっかけだ。それ以降、天才風の奇人変人として振る舞う、カリスマ的な存在を演じることが多くなるのだが、筆者としては『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)のヒロシのような何も持たないバカっぽい男の子を演じていた時の方が面白いと思う。

 最近では、映画『銀魂』で演じた志村新八が面白かった。『銀魂』は小栗旬や橋本環奈を筆頭に演者全員が飛び道具というか、奇人変人キャラのオンパレードの作品だったのだが、その中で視聴者目線を代表する凡人キャラを演じたのが菅田将暉だった。これが実に見事で、あんなに華やかな俳優が、ここまでオーラを消して普通の人間を演じられるのかと驚かされた。

 現在も映画『溺れるナイフ』を筆頭に数々の作品でカリスマ演技を見せている菅田将暉だが、『直虎』の虎松が面白いのは、カリスマ性とポンコツ性という彼の演じる両極の役柄がひとつの役に同居していることだろう。イケメンドラマとしても秀逸な『直虎』には、三浦春馬、高橋一生、柳楽優弥といった面々が、全員違うタイプのカッコいい男たちを演じている。

 そしてトリを務める最後のイケメンが虎松なのだが、最初に出てきた時は、血気盛んなだけのポンコツで、お家再興を言い出した時も、「こいつダメだわ」と直虎の立場で思った。虎松は直虎のかつてのポジションなので、「若いとは、無知で愚かだ」という話になるのかと思ったのだが、馬鹿は馬鹿なりに考えがあるのが面白いところだろう。

 行動の一つ一つは滑稽で目を見開いて怒鳴りあう虎松だが、思いついたアイデアを即座に実行していく行動力は見事で、ポンコツなのかカリスマなのかどっちなんだと、目が離せなくなる。この両極の横断こそが菅田将暉の本領なのだろう。「バカと天才は紙一重」を、肉体で体現できる俳優である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『おんな城主 直虎』
[NHK総合]毎週日曜20:00〜20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00〜18:45
作:森下佳子
出演:柴咲コウ、菅田将暉、小林薫、市原隼人、貫地谷しほり、井之脇海、阿部サダヲ、菜々緒、尾美としのり、高嶋政宏、和田正人、古舘寛治、尾上松也、市川海老蔵、柳楽優弥
制作統括:岡本幸江
プロデューサー:松川博敬
演出:渡辺一貴、福井充広、藤並英樹
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/naotora/

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