観客の評価が二分した『ブレードランナー 2049』は内容的な成功を遂げたのか?

小野寺系の『ブレードランナー 2049』評

 レプリカントが所詮、偽りの記憶に操られた哀しい存在でしかないのならば、人間もまた、あらかじめ決められた遺伝情報の制約のなかで生き、社会性に縛られる不自由な存在である。デッカードや観客が前作でレプリカントの行動に感動するのは、そんな不自由な状況に追いつめられたとしても、「人間性」を示すことができるという部分においてである。レプリカントに人間性があるのなら、人間が自由に生きられないはずがない。レプリカントの自由意志は人間の希望でもあるのである。

 そしてまた、ホログラムとして現れ、与えられた情報によって愛情をコントロールされてしまう人工知能が、定められた制約のなかで肉体を得ようとベストを尽くすように、生体を持つレプリカントもまたその行動に勇気づけられ、自分も「人間性」を持つことができるという希望を持つのだ。生きる意味に悩む「K」が、彼女の生き方に勇気を与えられることで、自分の意志を信じてみようと決意する瞬間が感動的だ。

 多くの人間は現実の社会において、あらかじめ決められた損得の観念やルールのなかで、見せかけの自由を与えられ、慎ましく反抗せず生き、社会の歯車となることを望まれている。そのなかでただ状況に身を任せているだけでは、その精神は奴隷に成り下がってしまうだろう。誰であれ、この鎖を引きちぎろうともがくことなしには、本当の意味で自由な意志を獲得し、能動的な行動をとることはできない。そこに踏み出していくことこそが『ブレードランナー』の精神である。本作は、前作のテーマを受け継ぎ、それをもう一度練り直し語り直すことによって、『ブレードランナー』が描いたテーマを明確に我々に届けている。本作はそのような意味で価値のある続編になったといえるのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『ブレードランナー 2049』
全国公開中
製作総指揮:リドリー・スコット
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、ロビン・ライト、ジャレッド・レト、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス、カーラ・ジュリ、マッケンジー・デイヴィス、バーカッド・アブディ、デイヴ・バウティスタ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:http://www.bladerunner2049.jp/

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