リニューアルの先に何があるのかーーHulu於保社長に聞く、動画配信サービスの現状と今後

Hulu社長に聞く、動画配信サービスの今後

「我々としてはマネーゲームに乗ってもしょうがない」

ーーより放送的なコンテンツが増えつつありますね。地上波とのサイマル放送の可能性も今後考えられるのでは?

於保:放送界では同時配信などいろいろな動きもありますが、権利の問題もあるので現時点では何とも言えません。テレビ朝日さんのAbemaTVに関しても、地上波放送からインターネット放送へ流れていくところを捉えていらっしゃるわけですが、AbemaTVは無料モデルです。Huluは“有料サービス”というところが大きなポイントだと思っているので、ユーザーの方々に「このサービスにはお金を払う価値がある」と思ってもらえることが大事。その価値として何が一番いいかを考えていかなければいけません。

――今後、Huluが日本テレビのネット映像事業の中核になっていくのではないかという印象も持ちます。

於保:長い目でみると、固定電話が携帯電話に代わるように、地上波からインターネット映像配信に経路は変わっていくと思います。わざわざ電話が置いてある玄関まで行って固定電話で電話をかける時代から、自分の部屋や外出先などで好きな時に電話ができるようになったように、決まった時間にテレビの前に座って番組を観る習慣も、好きな時に好きなものを好きなデバイスで観られる時代に、緩やかに変わっていくのではないでしょうか。人々の生活習慣が変わる話なので、もちろん時間はかかると思います。ただ、必ず人々の趣向はその方向へ変わっていくと思うので、今のうちにどれだけユーザーを囲っていくかが重要だと感じています。さらに言うと、人間の可処分時間は限られているので、映像に触れる習慣を失わせないためにも、我々はいろいろなデバイスで人々にコンタクトしていく必要があります。

――可処分時間というと、ゲームやLINEなどとの競争も意識している?

於保:これは我々Huluだけでなく、すべての映像配信に携わる事業者の課題だと思います。人々に対して映像のコンタクトポイントをどんどん増やしていき、触れるチャンスを生み出し続けていければ、コンテンツを観て面白いと思っていただいた方々はずっとHuluユーザーでいてくれるだろうと。コンタクトポイントを作らずに、テレビの前だけとか映画館だけと限定してしまうと、生活習慣の変化によりどんどん落ちていってしまう一方です。映像産業に従事する人たちは、映像を観てもらうためにはどうしたらいいか、どういうところにコンタクトポイントを作っていけばいいかを一緒に考えるべきだと思っています。

――NetflixやAmazonがオリジナルコンテンツ制作を重視する中、Huluでも『雨が降ると君は優しい』などのオリジナルドラマが生まれています。こうした独自コンテンツは今後も増えていきますか?

於保:オリジナルコンテンツは非常に大きなポイントです。コンビニに例えると、セブンイレブンがトップを維持している理由はセブンプレミアムが美味しいからだと思います。ファミリーマートに行ってもローソンに行ってもサントリーのお茶やビールがあるわけで、その違いはどこで生まれるのかといったら、オリジナル商品ということになるわけです。他サービスとの差別化はそこが最も重要だと思っているので、我々としてはもちろんHuluでしか観られないもの、Huluオリジナル作品をどこまで充実させていくかが重要になっていきます。

――ジャンルとしてはドラマが中心になっていく?

於保:ドラマはひとつの大きな柱です。ただドラマに限らず、それ以外にも面白い取り組みはやっていきたいなと。例えば、地方の系列局と一緒にやっている『渡部の歩き方 グルメ王の休日』というグルメ番組があるのですが、これから旅行に行こうと考えている方々が、「今回は金沢か」とか「このステーキ屋、行ってみよう」という感じで利用していただけているところもあるんです。あと、ジャンルとしては音楽。音楽はコンテンツとして非常に強力で、8月から配信をスタートした『TOKYO BEAT FLICK』(UVERworld)や、先日引退を発表した安室奈美恵さんのドキュメンタリー『Documentary of Namie Amuro “Finally”』は多くの会員獲得、視聴に繋がっています。

――有料モデルと音楽の相性もいいと。

於保:音楽には確実にファンが付いています。インターネット動画配信サービスは、契約方法や視聴方法がまだまだ皆さんに知られているわけではありませんが、アーティストの潜在的なパワーがきっかけとなって、その理解が深まっていく効果がある。そのアーティストのコンテンツを観たいという気持ちが、登録時のいろいろな障害やハードルを乗り越えてくれるんです。そういう意味では、音楽は非常に強力なジャンル。とはいえ、Huluとしてはまだまだ弱い部分ではあるので、今後より掘り下げていきたいですね。

――アーカイブの充実も重要かと思いますが、世界的にみると価格は上がっていますよね。この点についてはどう捉えていますか?

於保:人気コンテンツを確実に獲得するために価格競争になってしまうのは、ある程度仕方がないと思っています。ただ我々としては、マネーゲームに乗ってもしょうがないなと。それよりも、世界を見渡してみるともっと面白いコンテンツがある。8月から配信を開始したトルコのドラマ『オスマン帝国外伝 ~愛と欲望のハレム~』は少し変わった視点で仕入れたコンテンツですし、『ウェントワース女子刑務所』というオーストラリアのドラマもいち早く見つけて買い付け、今や人気コンテンツになっています。目の付けどころを変えれば、ユーザーの方々に楽しんでいただける作品が世界中にもっとあると思うので、我々はそういった作品をどんどん発掘していきたいなと。

――米HBOと国内SVOD独占契約されたのも大きいですね。

於保:そうですね。米国で人気のHBOとの国内SVOD独占契約はひとつの大きな武器になっている思っています。海外ドラマはちょっとしたきっかけでハマっていくものなので、そのきっかけになればいいなと。『ウォーキング・デッド』もまさにそうでした。最初は「なんだこれ」と思っても、途中から中毒になっていく。いま日本テレビでは、『Huluエピソード1シアター』という、海外ドラマの1話だけを地上で放送して、その取っ掛かりになるような取り組みもやっています。このような連携も他の事業者にはできない、Huluならではの強みです。

――日本市場における海外ドラマの認知度はどのように捉えていますか?

於保:まだまだですね。『24』や『プリズン・ブレイク』のように、大きな話題になって、多くの人たちが「これは観なければいけない」となって、TSUTAYAが賑わって……というようなことがもう一度起これば、海外ドラマはまたブレイクするのではないでしょうか。『ウォーキング・デッド』も本当はもう少し広がってもいいのになと思っています。まだまだ伸び代はある。ただシーズン7とかまでいってしまうと、どうしても入りづらくなってしまう。そこが課題なんです。既存ドラマの新シリーズは何かきっかけを作っていかなければいけないと考えています。

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