“一人称視点”の新感覚アクション『ハードコア』の映画的価値とは? 小野寺系が徹底レビュー

『ハードコア』の映画的価値とは?

リスクを引き受けることで唯一無二の映画が生まれる

 ただ、画面が終始動き回るというのは、観客を疲労させることも確かである。映像を見ている観客は、視界を支配されているため、カメラが動く度に自分の頭を揺らされているように感じるのだ。そのような負担をできるだけ与えないように、カメラは極力ゆっくり動かすというのが、撮影の基本である。だが本作は、あくまでも「一人称視点」での激しい撮影にこだわる。なぜなら、これこそがこの映画の存在理由そのものだからである。

 もともと、無名の立場で評価され長編映画に挑戦する映像作家というのは、本作のイリヤ・ナイシュラー監督もそうであるように、少ない予算のなか工夫し、従来無かった新しい先鋭的な試みによって価値を生み出している場合が多い。それが、より大手の制作会社のシステムに取り込まれ、より多くの観客に受け入れてもらうために表現をマイルドにするなど、思案を重ねていく過程で、結局は「“フツー”のよくある娯楽作品」になってしまうことも多い。そのなかで本作は、リスクを引き受け、ほぼ全編で一人称視点の演出を行うという決断をしているのだ。その姿勢あってこそ、本作は唯一無二といえる映画になったのだといえるだろう。

 この度、本作がソフト化されたことにより、幸いなことに好きな場面で中断しながら鑑賞することが可能になった。適度に休憩を入れることで、無理なく本作を楽しめるはずだ。

「見世物」こそが映画の源流

 本作で最も注目するべきは、なんといっても新しい映像体験に他ならない。主人公ヘンリーの声が失われているというのは、主観映像に観客をより同化させ、「自分の体験」として作品を見てもらうためであるように、ここで紹介した本作の設定や物語は、映像を引き立てるための道具立てに過ぎない。

 だが映画とは当初、映像そのものを純粋に楽しむための見世物であったはずだ。それがいつしか、物語を伝えるために映像を作るという娯楽へと、多くは目的が変化していった。だから本作の試みは、原初的で純粋な映画体験を取り戻そうという行為だともいえる。「TVゲームを模倣した映画」だと聞くと、軽薄なイメージを持つ観客もいるだろうが、それが時代性を背負った見世物であるからこそ、本作は映画としての本来の存在価値をも獲得したのだ。

■小野寺系(k.onodera)映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『ハードコア』
10月4日(水)Blu-ray&DVD発売

【Blu-ray】
価格:4,800+税
ディスク:本編1枚
仕様:本編96分+特典映像

<特典映像>
・撮影風景
・イリヤ・ナイシュラー監督&シャールト・コプリーインタビュー映像
・ティムール・ベクマンベトフプロデューサーインタビュー映像
・オリジナル予告編&TVスポット集
・劇場予告編&TVスポット集

 

【DVD】
価格:3,800+税
ディスク:本編1枚
仕様:本編96分+特典映像

<特典映像>
・撮影風景
・オリジナル予告編&TVスポット集
・劇場予告編&TVスポット集

製作・監督・脚本:イリヤ・ナイシュラー
製作:ティムール・ベクマンベトフ
出演:シャールト・コプリー、ヘイリー・ベネット、ティム・ロス
発売元・販売元:バップ
提供:クロックワークス/パルコ
2016年/ロシア・アメリカ/原題:HARDCORE HENRY/字幕翻訳:北村広子/吹替翻訳:宇治田智子/R−15指定
(c)2016 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:HARDCORE-EIGA.com

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