荻野洋一の『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』評:男だって水原希子を目指すべきだ 

荻野洋一の『奥田民生~』評

 軽薄で俗悪なクリシェ(紋切り型)のたわむれでありつつ、「This is your last dance.」と舌を出している。水原希子がしょっちゅう舌を出しているのは、「この一瞬があなたの最後の瞬間、最後のイニングかもしれないわよ」とアラームを鳴らしているのだ。この映画は松尾スズキの自宅のワインオープナーで始まり、東京国立博物館のあの美しい法隆寺宝物館において、最後もワインオープナーで締めている。人生とは、編集長役の松尾スズキがうやうやしく封を切るルイ・ロデレール・クリスタルのロゼの泡である。ダグラス・サーク監督は、最後の傑作『悲しみは空の彼方に』(1959)冒頭のタイトルバックのシャンパンの泡だけで、人生のすべてを語りきってみせた。これに対し、われらが本作の主人公、妻夫木聡は「いや、人生は立ち食いそばのつゆの染みである」と、がんばって言い張る。奥田民生が初めて「ミュージックステーション」に出演したとき、タモリからパンツに染みが付いてるよと指摘され、奥田がまったく気負わずに「さっき食べたラーメンの染み」だと答えた、その染みこそ人生だと妻夫木は言い張る。そして、その彼が浮気女の千本ノックののちに「練習は有益でした」と言えるようになる。つまり、人生はルイ・ロデレール・クリスタルのロゼの泡であり、と同時に立ち食いそばの染みでもある。それは甘美であると同時に苦渋な認識である。あとは、水原希子のための『ウィークエンド』を、誰か才能のある作家が撮るべきだろう。

■荻野洋一
番組等映像作品の構成・演出業、映画評論家。WOWOW『リーガ・エスパニョーラ』の演出ほか、テレビ番組等を多数手がける。また、雑誌「NOBODY」「boidマガジン」「キネマ旬報」「映画芸術」「エスクァイア」「スタジオボイス」等に映画評論を寄稿。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員。1996年から2014年まで横浜国立大学で「映像論」講義を受け持った。現在、日本映画プロフェッショナル大賞の選考委員もつとめる。

■公開情報
『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
全国東宝系にて公開中
原作:渋谷直角「奥田民生になりたいボーイ・出会う男すべて狂わせるガール」(扶桑社)
監督・脚本:大根仁
出演:妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、リリー・フランキー、松尾スズキ
制作:ホリプロ、オフィスクレッシェンド
制作協力:東宝映画
配給:東宝
(c)2017「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」製作委員会
公式サイト:tamioboy-kuruwasegirl.jp

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