矢口史靖監督が語る、『サバイバルファミリー』の裏側と独自の製作スタイル「発見がなきゃつまらない」

矢口史靖監督インタビュー

 「何か発明がないと、自分がつまらない」

――これまでのお話を聞いていて思いましたが、先ほどの全国ロケの話もそうですし、この映画には、まだまだやっていないこと、やろうと思えばできることって結構あるんだという、監督の思いが込められているように感じました。

矢口:結構どころか、まだ映画でやってない表現のほうが多いはずですよ。それは題材にしてもそう。もう腐るほどありますよ(笑)。それを、「あ、これ、映画になるんだ」って、誰も気がついてないだけなんです。だから、映画って、きっとこの程度なんだろうなっていうふうに気分が縮こまっているとしたら、そんなはずはないです。前に成功したものに倣って、それと似たものを作って稼ごうよとか、そういう発想をしていくと、だんだん気分が縮こまってきます。もちろん稼ぎたいんですよ。ヒットしてほしいし、たくさんの人に観てほしいんですけど、儲かるからやっとけみたいな感じには、なかなかなれないですよね。

――矢口監督のフィルモグラフィーを見ると、『ウォーターボーイズ』にしても、『スウィングガールズ』にしても、それまでありそうでなかったもの、そのあとに似たようなものはたくさん出てきていましたけど、そういう意味では、今回の『サバイバルファミリー』も含めて、「それまで誰もやってないこと」を作ろうという意識が、強くあるのでしょうか?

矢口:完全にそれは、自分の自己満足ですけど(笑)。何か発明がないと、自分がつまらないんですよ。「ここは誰もやってないよね?」っていう発見がなきゃつまらない。だから、全体的にはうまく行きそうなセオリーに則ってそうだけど、ちょっとこっちに外してみましょうとか、それやったらどうなっちゃうかな、みたいな発明がまったくなくて、あの成功したやつそっくりにしましょうってなっちゃうと、やる気が出てこないと言いますか、それだと単なる仕事になってしまう。や、もちろん仕事なんですけど、やっつけでしかなくなっちゃって、まったくやる気が湧いてこないので、そういうものは作れないですよね。そういう意味では、プロではないのかもしれないけど。

――それも含めて、矢口監督は、職業監督と言うよりも、いまだに“自主映画魂”みたいなものを持っているように感じました。

矢口:“自主映画魂”と言われちゃうと、ちょっとおこがましいですけどね。そんなに志は高くないんですよ(笑)。自分が観たいものを、ただ撮っているだけなので。

――とはいえ、そういう人たちの多くが、閉じたほうに行きがちなところ、矢口監督の映画は、常に開かれたエンターテインメント性を持っていて。そこが非常にユニークだなって思います。

矢口:それはきっと、僕がもともと、ハリウッド映画とか、開かれた映画をずっと見てきたせいでしょうね。閉じていてカッコいい映画に、あんまり触れてこなかったんですよ。閉じてたほうが映画通にモテるのにって言われても、もう育ちが違うので(笑)。ただ、そこにコクみたいなものは、一応入れておきたいんですよね。食べやすいだけじゃなくて、珍味な材料を使ってみる。そうやって、ちゃんとお客さんに届きつつ、隠し味をこっそり入れたいっていう欲は、常にあります。

――ところで、今回の『サバイバルファミリー』のBlu-rayスペシャル・エディションには、いくつか特典映像が収録されています。「矢口史靖監督のサバイバルのススメ」、本編のサイドストーリーである泉澤祐希主演の「サバイバルボーイ」、葵わかな主演の「サバイバルガール」など。

矢口:メイキングとかも、もちろん面白いんですけど、今回、僕がいちばんおススメしているのは、「映画の常識、それほんと?」です。これ、すごい面白いので、是非(笑)。

――これ、何ですか?

矢口:宣伝期間中に、CSの日本映画専門チャンネルというところが、宣伝の枠を用意してくれたので、まずはサイドストーリーを撮ったんですけど、さらにそれプラス、僕の発案で、「映画のなかによく出てくるあのシーン、実際はどうなの?」を検証する番組をやりたいって言ったら、それがあっという間に通ってしまって。2分程度のものを、合計8本作ったんですけど、それがヘンに面白いんですよ(笑)。なのでどうしても特典にしたくて、今回収録しちゃいました。

――「時限爆弾のコード、どっちを切る!?」とか「威嚇射撃はどこへ行く!?」など、映画の常識とされているものを、田中要次さんのナビゲートで実証していくミニ番組になっていて……これ、本編と関係ないですよね?

矢口:まったく関係ないです(笑)。「サバイバルファミリー」の宣伝用にとってもらった枠を、映画そっちのけで遊び倒してしまった。ただ、その番組が、衛星放送協会オリジナル番組アワードの「ミニ番組・PR部門」の賞を頂いて……何か、それなりに面白がってもらえたみたいなんですよ。なので、そちらも是非、合わせてご覧いただきたいですね(笑)。

(取材・文=麦倉正樹)

『サバイバルファミリー』Blu-ray
『サバイバルファミリー』DVD
『サバイバルファミリー』Blu-ray豪華版

■リリース情報
9月20日(水)DVD&Blu-ray発売&レンタル開始
・スペシャル・エディション(2枚組:本編Blu-ray+特 典Blu-ray)¥7,600 (本体)+税
【外装・封入特典】□特性アウターケース  □24Pフルカラーブックレット
【特典映像】
本編ディスク:□予告編集(特報/予告/TV-SPOT)
特典ディスク:□サイドストーリー 「サバイバルボーイ」(泉澤祐希)&「サバイバルガール」(葵わかな) □メイキング 矢口史靖のサバイバルのススメ □矢口史靖のアーバンサバイバル術講座  □主題歌ミュージッククリップ  □イベント集(完成披露試写会、初日舞台挨拶 ほか)□矢口史靖の「映画の常識 それほんと!?」(全8篇)
【音声特典】□コメンタリー音声 矢口史靖監督×泉澤祐希×葵わかな
・スタンダード・エディション
Blu-ray(本編Blu-ray)¥4,700 (本体)+税 DVD(本編DVD)¥3,800 (本体)+税

出演:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、菅原大吉、徳井優、桂雀々、森下能幸、田中要次、有福正志、左時枝、ミッキー・カーチス、時任三郎(友情出演)、藤原紀香、大野拓朗、志尊淳、渡辺えり、宅麻伸(友情出演)、柄本明、大地康雄
原案・脚本・監督:矢口史靖
発売元:フジテレビジョン 販売元:ポニーキャニオン
(C)2017 フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

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