>  > 『悦ちゃん』昭和のヒットメイカーの復活

21世紀版『悦ちゃん』が示した、“昭和のヒットメイカー”獅子文六の魅力

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 この7月より放送がスタートしたユースケ・サンタマリア主演のドラマ『悦ちゃん~昭和駄目パパ恋物語~』(毎週土曜18:05~/NHK総合)によって、“昭和のヒットメイカー”獅子文六に、再び注目が集まっているようだ。4月の改編で、“土曜時代劇”から“土曜時代ドラマ”へとリニューアルを遂げたNHKの土曜ドラマ枠。それに伴い、同枠のドラマが扱う範囲は、“時代劇”という言葉からイメージされる江戸時代以前のみならず、明治、大正、昭和(戦前)といった近現代まで拡大されたという。

 そこで今回、制作スタッフが目を付けたのが、小説家・劇作家・演出家として戦前から活躍していた“昭和のヒットメイカー”獅子文六だった。若くしてフランスに渡り演劇理論を学んだのち、岸田國士、久保田万太郎らと“文学座”を創設する一方、作家としても活躍。とりわけ、今回のドラマの原作となる『悦ちゃん』は、新聞連載小説として発表され大人気を博した、獅子文六初期の代表作である。

 その後も、『てんやわんや』、『自由学校』、『青春怪談』などの新聞連載小説をはじめ、戦前・戦後に数々の小説、エッセイを発表している獅子文六の当時の人気はすさまじく、これまで数度にわたってドラマ化されている『悦ちゃん』はもちろん、『青春怪談』(監督:市川崑/1955年)、『七時間半』を原作とする『特急にっぽん』(監督:川島雄三/1961年)など、昭和10年代から30年代にかけて、実に40本近い作品が映画化されているなど、その活躍ぶりは、まさしく“昭和のヒットメイカー”の名に相応しい。そう、現在も“朝ドラ”として、多くの人に親しまれているNHK連続テレビ小説の記念すべき第一回(1961年)となった『娘と私』は、獅子文六の小説を原作としたものだった。

 そんな彼の作風は、時代の風俗・流行を取り入れながら、市井に生きる人々の悲喜こもごもを、ユーモア溢れる軽妙なタッチで描くことにある。堅苦しい文体と哲学的なテーマを持つ“純文学”とは異なり、獅子文六の小説は、いわゆる“大衆文学”であり、彼は当時の“流行作家”だったのだ。しかし、そうであるがゆえに、いわゆる“文学史”のなかでは、ほぼ扱われることのなかったのもまた事実である。もちろん、小林信彦、福田和也、平松洋子など、獅子文六のファンを公言する人々は、これまでにも多く存在した。だが、その再評価の機運が一気に高まったのは、長らく絶版となっていた彼の作品が、筑摩書房より復刊されたことがきっかけだった。

 今から4年前の2013年、『コーヒーと恋愛』が文庫で復刊されて以降、『てんやわんや』、『悦ちゃん』、『娘と私』、『七時間半』、『自由学校』、『青春怪談』など、獅子文六の代表作が続々と文庫化。いずれも新装版としてカバーや解説を一新、現代の若い人たちにも通じるその“ポップな面白さ”を前面に押し出したのだ。ちなみに、今回ドラマ化された『悦ちゃん』の表紙イラストは本秀康が書き下ろし、新解説は映画化もされた小説『ふがいない僕は空を見た』などで知られる作家の窪美澄が担当している(筆者が初めて手に取った獅子文六作品は、小田島等が表紙をデザインし、本書にインスピレーションを得て同タイトルの楽曲を書き上げた曽我部恵一が新解説を書いた『コーヒーと恋愛』だった)。今回の『悦ちゃん』ドラマ化は、その一連の大きな流れのなかにあると言っても過言ではないだろう。

 さて、今回のドラマ『悦ちゃん』の舞台となるのは、昭和10年(1935年)の東京だ。流行歌の作詞を生業とする柳碌太郎=碌さん(ユースケ・サンタマリア)の愛娘である、口が達者なおかっぱ頭の女の子、柳悦子=悦ちゃん(平尾菜々花)は、3年前に妻を亡くして以降、しみったれた生活を送っている碌さんに必要なのは、新しい伴侶であると確信。もう一度、昔のような“カッコいい碌さん”になってもらうために、あれやこれやと画策する……というのが基本的な物語である。

 悦ちゃんの小学校の担任の村岡政子(村川絵梨)、碌さんに何かとちょっかいを出すウグイス芸者(流行歌を歌う芸者兼歌手)春奴(安藤玉恵)、銀座大松デパートで売り子を務める池辺鏡子(門脇麦)、さらに碌さんの見合い相手となる銀行令嬢、日下部カオル(石田ニコル)など、碌さん=悦ちゃん父子を取り巻く、個性豊かな女性たち。果たして、このなかに碌さんの再婚相手……悦ちゃんの新しい“ママ”となる女性はいるのだろうか?

      

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