長瀬智也に迫る残酷な運命ーー『ごめん、愛してる』切なすぎる“人生の花火”

 自分の手持ち花火だけが先に切なく消える。それは、命の灯火が消える瞬間が近づいていることを、否が応でも感じてしまう瞬間だった。7月30日放送の『ごめん、愛してる』(TBS系)第4話では、律(長瀬智也)の脳内にかかえていた爆弾が疼き始める。残り僅かな命だと知り、実の母親・麗子(大竹しのぶ)を求めて日本に来た律。だが、麗子には溺愛する息子のサトル(坂口健太郎)に夢中で、自分が息子だと気付いてくれる気配が一切ない。それどころか、いざというときはサトルのために命を投げ出せとまで言われてしまう。日本に来て約1ヶ月。自分に残された時間は、あと3ヶ月。“運命“という言葉を繰り返すことで、残酷過ぎる人生を、ひとりで飲み込もうとする律に切なさが増していく回だった。

 前回、初めて凜華(吉岡里帆)に歌ってもらった子守唄は、律の中で数少ない愛された記憶として何度も心を温めていた。だが、凜華はサトルへの想いを断ち切ろうと、アメリカに語学留学をすることを決意する。律は麗子に、凜華はサトルに、互いに想いが伝わらないもどかしさを抱える同志であり、甘えられる唯一の存在である凜華が遠くに行ってしまう……そのストレスがトリガーとなり、律は激しい頭痛に襲われるのだった。幸い、回復した律だったが、その介抱がきっかけとなり凜華は、律と若菜(池脇千鶴)、魚(大智)の住む家に転がり込むことになった。川の字になった4人は、まるで身を寄せ合う捨て猫たちのようだ。

 「この人だあれ?」高次脳機能障がいを持つ若菜の言動はいつもピュアだ。初めて見る凜華の頬をツンツンとつついてみせる姿は、好奇心旺盛な子どもそのもの。「こいつはボケちんだ」と言う律に、凜華は“ちゃんと名前がある“と「凜華です」と自己紹介する。名前は、親からもらう最初のプレゼント。自分が何者であるのかを名乗ることは、自分の歴史の一つを伝えるのと同じなのかもしれない。律は、麗子の家で働くために履歴書に“リュウ“と偽名を使った。麗子に気付いてほしいと願いながら、自分から名乗り出ることのできない怖さがあったからだ。そんな心の葛藤を、純粋な若菜はいとも簡単に飛び越えて「律っていうんだよ」と凜華に本名を伝えてしまう。一人で生き、一人で死んでいく、そんな風にしか人と接してこなかった律にとって、こうして一つひとつ自分の人生を紐解くように、人と関係性を結んでいく作業は、初めてのことだったのではないだろうか。

 ゆっくりだが、着実にこみ上げてくる凜華への愛しい気持ち。それをどう表現したらいいのかわからない律の行動は、若菜に負けず劣らずピュアだ。前回の不意打ちのキスも、律にとっては性愛より親愛という言葉が適しているように思う。だからこそ、ゲームのように恋愛を楽しむ塔子(大西礼芳)にキスをされても、律は「バカか」と一蹴したのだろう。自分が凜華にしたキスとは重みが違うのだ、と。渡米しようとする凜華を止めて「ここにいろ、俺が死ぬまで」とまっすぐに伝える律。ともすれば、プロポーズのようにも聞こえるこのセリフを、キザだと凜華に茶化されて、ハッとする姿も微笑ましい。かつて、律が身を挺して守った組の跡取り息子のラン(イ・スヒョク)も、同じ施設で育った若菜も、彼にとっては守るべき弟や妹のような存在だ。だが、凜華のことは守りもするが、守られもする。そんなパートナーと思える存在は、律にとって初めての人。そして、それが“愛”と呼ぶ感情であることも、今まさに学んでいる最中なのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる