>  > 小野寺系の『カーズ/クロスロード』評

『カーズ/クロスロード』に見る、次世代に受け継がれるディズニー/ピクサーの精神

関連タグ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

人生を楽しむこと、負けを噛みしめること

 ライトニング・マックィーンの名の由来は、レース狂のスター俳優、スティーブ・マックイーンが連想されるが、実際はピクサーで活躍し、病にて世を去ったアニメーターの名前からだという。マックィーンの師匠となるドック・ハドソンの声は、プロレーサーとしてデビューし、79歳になってもレースに出場し話題になった、もう一人のレース狂スターである、ポール・ニューマンが演じていた。ポール・ニューマンは『カーズ』の第1作とスピンオフ作品の声を演じた後、惜しくもこの世を去ったが、本作『カーズ/クロスロード』では、今までに録られ使われなかった音声をアーカイブ化し、それを活かすように作られているという。

 レース狂というだけでなく、『暴力脱獄』や『明日に向って撃て!』などアメリカン・ニューシネマの反骨精神あふれる役のイメージ、そしてベトナム戦争への抗議活動などで政府のブラックリストにまで載ったというポール・ニューマンの精神性は、ひとつのヒーロー像として、いつでも大衆に求められているものである。本作で彼のイメージに立ち返るのは、その無形の遺産を継承し次世代に伝えていくという意図もあるだろう。

 本作の多くのキャラクターと同じく、ポール・ニューマンが演じたドック・ハドソンにも実際のモデルがいる。50年代にストックカー・レースの先駆者となったハーブ・トーマスと、彼がチャンピオンシップで優勝したときに乗っていた車「ファビュラス・ハドソン・ホーネット」である。マックィーンは、この自分が受け継いだ魂のルーツを辿る旅において、かつて彼が活躍した伝説のダート(未舗装)コースを走行し、田舎のロードハウス(街道沿いのバー)で酒を飲みながら、ドック・ハドソンの昔の仲間たちと語り合う。勝つことも、負ける苦味も、いつかはみんな昔話として、酒の肴になるのだ。競技が終わっても、こうして人生は続いていく。

 ピクサーは、アニメーションのなかで深みのある人間ドラマや人生の意味について扱ってきたが、子ども向けアニメーションが、ついにこういう渋い領域に入ったきたというのは感慨深い。こんなものは大人が喜ぶだけだろうという意見もあるだろうが、子どもたちにこういう描写を見せることが無意味であるとは、私は思わない。誰もが人生やキャリアの終わりを迎える。それをしっかりと意識することで、今を精一杯生きて、人生を楽しむことができるのではないだろうか。夢に敗れても、走る道は常に残されているのだ。

ジョン・ラセターの伝説と『カーズ』

 ライトニング・マックィーンのカー・ナンバー「95」は、ピクサー・アニメーション・スタジオが『トイ・ストーリー』を発表した伝説の年、1995年を意味するといわれる。『カーズ』前2作の監督であり、ピクサー創立の中心メンバーであるジョン・ラセターは、かつてCGの導入をうったえて、古巣であるディズニーから締め出された経緯を持っている。その後、ピクサーは『トイ・ストーリー』をはじめとする数々のCG作品でヒットを連発し、ディズニー作品を、ビジュアルや脚本によって凌駕していく。その後、ジョン・ラセターはディズニーのピクサー買収により、いまではディズニー、ピクサー両スタジオの製作を統括する立場となった。この間に行われた、手描きアニメーションからCGアニメーションへの移行は、本作で描かれているような、旧世代と新世代の交替を思い起こさせる。しかし、ラセターはCGを使うことで、従来のアニメーションと全く違うものを作っているという意識はないようだ。手描きもCGも、その根っこにあるのは、かつてラセターがアニメーターとしてディズニーで学び取った、ものづくりの精神である。彼が怨恨にとらわれず古巣へ帰還したのは、アニメーションづくりへの愛があるからに他ならないだろう。

 本作では、新オーナーがマックィーンに引退をうながし、キャラクタービジネスで稼ぐことをもちかけるシーンがある。

「君は十分頑張った、レースからは引退して報酬をもらうべきだ」

「報酬はレースに出ることです。驚くような速さでライバルたちを抜き去るレースをする、それがぼくの望む報酬なんですよ」

 この目頭が熱くなってくるようなマックィーンの望みは、気骨あるアニメーターに通じるものがある。ディズニーの伝説も、ピクサーの伝説も、それを受け継いでいく者は、それを儲けるだけの道具にしてはならない。今回、ジョン・ラセターからシリーズを受け継ぎ、初めて監督に挑戦したブライアン・フィー、そしてスタッフたちは、ピクサーの精神を、そしてそのルーツであるディズニーの精神をしっかりと受け継ぎ、また次世代に継承していくことを、『カーズ/クロスロード』で宣言しているのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『カーズ/クロスロード』
全国公開中
監督:ブライアン・フィー
製作総指揮:ジョン・ラセター
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017Disney/Pixar.AllRightsReserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/cars-crossroad.html

      

「『カーズ/クロスロード』に見る、次世代に受け継がれるディズニー/ピクサーの精神」のページです。の最新ニュースで映画をもっと楽しく!「リアルサウンド 映画部」は、映画・ドラマ情報とレビューの総合サイトです。

表示切替:スマートフォン版 | パソコン版