有田哲平×本田翼『わにとかげぎす』“蝉”が暗示する不吉な未来 謎が謎を呼ぶ第1話を振り返る

『わにとかげぎす』謎が謎を呼ぶ第1話

 「実は37パーセントは童貞のまま死んでいくらしいよ」。ラジオの中から流れてくる尾崎世界観の声で物語が始まったドラマ『わにとかげぎす』(TBS系)。同ドラマの第1話が、7月19日に放送された。『わにとかげぎす』は、2006年から2007年まで講談社『ヤングマガジン』にて連載された、古谷実による同名人気コミックを、『ソラニン』の脚本家・髙橋泉、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のプロデューサー峠田浩、『カルテット』(TBS系)の演出家・坪井敏雄が手がけたヒューマンドラマ。ショボクレ警備員の富岡ゆうじ(有田哲平)が、“没な人生”にお別れするため“友達作り”に奮起するも、次から次へとアクシデントが起き、人生が思わぬ方向へと向かっていく模様を描く。

 ショッピングセンターの夜間警備員として働いている富岡は、勤務の合間に屋上で、趣味のラジオを聴きながら筋トレに励んでいた。そんな中、ラジオから「こないだの合コンで蝉の話になってさ、あいつら普通に地上で生まれるのに、わざわざ一回地中に潜るらしいね」という声が聞こえてくる。「それにせっかくでてきたのにさ、蝉のメスって一生に一度しか交尾しないらしいよ。オスはがんがんヤリまくるらしいけど。でも、メスの方が圧倒的に多いわけじゃなくて、オスメス同じ比率だって。それって、ヤレないまま鳴いてるだけのオスがすげえ数いるってことじゃん」。富岡はラジオに相槌を入れながら、蝉に親近感を抱き出す。なぜなら、彼は女性経験がない。ましてや38年間、友達すらいないのだ。

 中学1年生の体育祭では、“富岡くんエアーフォークダンス事件”が勃発するほど、幼い頃から嫌われていたという。当時のその事件は、ホームルームの議題にまで発展したのだが、そのホームルームの光景がなんとも酷い。ひとりの女性生徒が机をバンッと叩き、フォークダンスで富岡とだけ手を繋がなかった理由を話し出す。「もう本当のことを言います! 富岡くんは気持ち悪いんです! だから手を繋ぎませんでした!」と教師に必死に訴えかけるのだ。富岡含めたクラスメイト全員がいる教室で。その訴えを聞いた教師もまたさらに驚くべきことを口にする。「どんなところが? 先生にわかるように言って」、と。そしてなぜ、富岡が気持ち悪いのかの議論が始まっていく。まさに地獄絵図。もし、私が富岡だったら確実に登校拒否になるだろうと思わずにはいられない。だが、富岡は当時を振り返り、「俺的にはかなりどうでもよかったが」とコメントしていた。この一言こそ、38年間これまでの富岡の人生が象徴されていたように思う。「どうでもいい」と考えることを放棄し、ひたすら困難を避けてただ孤独に生きてきたのだ。

 “地上で生まれるのに、わざわざ一回地中に潜る”という蝉と同じく、富岡もまたせっかく生まれたのに、日の目を浴びることなく、ただ眠り倒してきただけの38年間を送っていた。ある夜、そんな日々の生活に疑問と不安を覚え、孤独は罪だと自覚する。そして、流れ星に「友達が欲しい」と願うのだった。そんな彼の人生を一変させるのが、「お前は一年以内に頭がおかしくなって死ぬ」という謎の脅迫状。謎の脅迫状の送り主を突き止めるために、心当たりがあるマンションへと向かった富岡は、そこでホームレスのオヤジ(光石研)と出会う。さらにそこから、吉岡華(コムアイ)、島田裕至(DOTAMA)はじめ、様々な人と知り合い、翻弄されていくのだ。

 そんな富岡にとって最もキーマンとなるのが謎の隣人・羽田(本田翼)だろう。富岡の部屋を盗聴していたり、“富岡ゆうじ出勤表”という名目で一日の富岡のタイムスケジュールを管理していたり、富岡が帰ってきた音を聞いた瞬間にシャワー中にも関わらず、びしょ濡れ状態で外に出て行ったり、トランプのジョーカーを大切に飾っていたりと、怪しい空気漂うエキセントリックな女性だ。どうやら富岡にひとめ惚れしているらしく、“一生に一度しか交尾しない蝉のメス”のように、盲目なまでに一途に富岡を想っているようだ。そして、羽田の部屋に“蝉”が迷い込んだことで、彼女は富岡の優しさとともに脅迫されている事実を知ることになるのだった。

 一体誰が、富岡に脅迫状を送りつけているのだろうか。そして、富岡の人生はどんな方向に転がっていくのだろう。「人間ってさ、不安に耐えられないらしいよ。医学的に脳のつくりがそうなってるんだって。でも、完全に治らなくても進行を遅らせる薬がある。それが、金」というオヤジの言葉は、富岡の未来を暗示しているようにも聞こえる。“不安”は24時間つきまとい、心を蝕んでいく。“安心したい”“安全でいたい”と強く欲求するようになるのだ。そして“金”もまた人間の欲望を刺激し、時に狂わせていく。

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