がんじからめの世に一刺しの復讐を スタントマン魂が刻まれた『ジョン・ウィック:チャプター2』

小野寺系『ジョン・ウィック:チャプター2』評

 2014年公開の『ジョン・ウィック』は、キアヌ・リーブスが『マトリックス』シリーズ以来の当たり役をつかんだ作品だ。ロシアンマフィアのボスの息子に飼い犬を殺され愛車を奪われた主人公が、復讐を果たすために、単身でマフィアのアジトに乗り込み、立ちふさがる者全てを華麗な銃さばきと体術で殺傷していき、ついに組織をひとつ壊滅させてしまう。その男ジョン・ウィックの正体は、「鉛筆だけで三人を殺した」など数々の逸話を持つ、最強にして伝説の殺し屋だったのだ。

 ジョン・ウー監督作のような荒唐無稽さと、スティーヴン・セガール主演作のような容赦ない殺傷術のリアルさとが組み合わされた、「ガン・フー」と呼ばれる新鮮なアクションは話題を呼び、『ジョン・ウィック』は3部作としてシリーズ化されることが決まった。今回は、その2作目となる『ジョン・ウィック:チャプター2』の描写や背景に迫りながら、本シリーズの本質的な魅力を掘り起こしていきたい。

ローマは殺し屋の聖地だった

 このシリーズ、設定の荒唐無稽さも特徴的である。「コンチネンタル・ホテル」と呼ばれる、凄腕の殺し屋たち御用達の豪華な宿泊施設が存在することと、そのホテルの中では殺しや争いをしてはならないという独自ルールは、「ガン・フー」と並んで、じつにコミック的だ。ちなみに、『ジョン・ウィック』の前日譚は、実際にコミック化されるのだという。さらにコンチネンタル・ホテルを舞台にしたスピンオフドラマが製作されるとも発表され、『ジョン・ウィック』の殺し屋ユニヴァースは急激に広がりを見せつつある。一昔前なら「バカバカしい」と切り捨てられていたかもしれない内容だが、このような設定をリアルに描いた作品が賛辞を持って受け入れられたというのは、近年のアメコミ映画のヒットによるところも大きいように思われる。

 平和で静かな生活を望むジョンは、もちろん本作でも殺し屋家業に舞い戻ってしまうことになる。彼を縛るのはイタリアンマフィアとの古い契約だ。平穏な日々を取り戻すため、ターゲットの滞在するローマに飛ぶジョン。ローマにはコンチネンタル・ホテル本店があるという。そのオーナーを、“ジャンゴ”など、マカロニ・ウェスタンで数多くのガンマンを演じてきたイタリア俳優、フランコ・ネロが演じているというのが嬉しい。

 フランコ・ネロの役名“ジュリアス”をはじめ、“カロン”や“アレス”など、本作の殺し屋たちのネーミングには、ギリシア神話やローマ時代の名が使われている。そのように宗教的、歴史的な世界観が背景にある本作では、カトリックの総本山がローマのヴァティカンにあるように、殺し屋たちの本拠地がローマにあるというのも道理かもしれない。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『ボーダーライン』で示していたように、「殺し屋」のルーツがローマ社会の過激な宗教組織にあったという歴史的背景もあるのだ。本作のローマでは、イタリアンレストランでワインを選ぶように、武器のソムリエが吟味した品物をひとつずつ薦めてくれる。また、防弾仕様のイタリアンスーツをオーダーメイドしてくれる仕立て屋もいる。ラグジュアリーなサービスが提供されるヒットマンの聖地なのだ。この妄想が爆発したバカバカしさが楽しい。

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