絶望的なのに、活気づけられるーー爽快SFホラー『ライフ』の輝かしいユーモア

田村千穂の『ライフ』評

 そうした人間の個別の魅力を、6人の俳優が抑えた演技で適切に伝えている。彼らの個人的な背景は、控えめに対話の中で示される程度なのがいっそう効果的である。個別の事情を抱えながらもあくまで同じ任務につく信頼感の上に成り立つ人間関係を描いているのだ。そのため、各々の恐怖と悲しみも抑制した表情の変化のみでじゅうぶんに表現され私たちの心を打つ。

 『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(クリストファー・マッカリー監督)でトム・クルーズと対等のアクションをこなし、目を見張るような美しさで観客をとりこにしたレベッカ・ファーガソンが、ここでは地味な宇宙服に身を包んで髪をひとつにまとめ(検疫官ミランダを演じる)、うっすらと涙の膜が張った意志の強い目と微かに震える唇でふたたび観客を魅了するだろう。

 そして、少しだけ眉が下がった悲しい顔のジェイク・ギレンホール。愚かな争いの絶えない地球に愛想をつかし、国際宇宙ステーション(ISS)に健康も顧みず長期間滞在する医師デビッドを演じる彼のたたずまいから目を離すことができない。困り顔のジェイク・ギレンホール。陽気な音楽、輝く太陽、青い海。ラストもやはり、人間の善意でもって幕がとじられるだろう。地球は破滅するかもしれないが、尊ぶべき人間たちは確かにいたのだ。笑いがふたたびこみ上げてくる。優れた映画を見た時に起こる喜びである。

■田村千穂
1970年生まれ。映画批評・研究。著書に『マリリン・モンローと原節子』(筑摩選書)、『日本映画は生きている』第5巻(岩波書店、共著)。2017年度は中央大学にて映画の授業を担当。

■公開情報
『ライフ』
丸の内ピカデリーほか全国公開中
監督:ダニエル・エスピノーサ
出演:ジェイク・ギレンホール、ライアン・レイノルズ、レベッカ・ファーガソン、真田広之
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:LIFE-official.jp

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