窪塚洋介の“全盛期”はいま訪れようとしている? そのキャリアと日本映画の大きな変化

窪塚洋介のキャリアと日本映画の大きな変化

『ハローグッバイ』

 窪塚が脚光を浴びることになった『GO』で監督を務めた行定勲は、もともと岩井俊二や林海象のもとで助監督の経験を積み、97年になって初長編作を発表した。助監督を経て監督になるかつての常道は、その頃すでに主流ではなくなりつつあったが、ましてや10年代に同様の道筋を辿るケースはまれと言っていい。でもそんな状況下で監督デビューを果たしたのが菊地健雄だ。瀬々敬久『ヘヴンズ ストーリー』、黒沢清『岸辺の旅』を始め、名だたる監督たちの作品を助監督として支えてきた彼が、初監督作『ディアーディアー』で世に出たのは15年。晴れて公開される監督2作目『ハローグッバイ』は、前作で見せた確かな技術はもちろん、どんな題材にも即応できる度量をあらためて示す作品になった。いわゆるスクールカーストの上位にいる派手な少女と、下位に位置するような優等生の少女。クラスの中でも対照的なふたりの女子高生が、ある老婆の思い出の曲をきっかけに距離を縮め、またそれぞれの世界に戻っていく過程を、菊地は丁寧な感情描写で描きだした。少女たちのまなざしに嘘がないのは、その行動の、心情の背景にある繊細なゆらぎを、監督と演者が丹念にすくい取ることに成功したからだ。

『ぼくらの亡命』

 メジャーとインディペンデントの二極化が国内外で定着するなか、内田伸輝監督作『ぼくらの亡命』は“インディペンデント映画の極北”と呼ぶべき世界観を提示する。東京近郊の森でテント暮らしをするホームレスが、美人局の片棒を担がされる女に一目惚れし、彼女をさらって国外脱出を企てる恋愛劇。社会に見捨てられた男と幸福に見放された女の逃避行は、男の怪異な風貌や書に覆われたテント生活の凄絶さによって、荒涼と殺伐を極めていく。10年、『ふゆの獣』で東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した内田は、みずから編集や美術、録音まで9役をこなし、現場スタッフ3名、撮影1年、ポストプロダクション1年で本作を完成させた。その制作体制も含めて、この作品が照射するのは世界に広がる喪失感や絶望感、そこを乗り越えてなにが可能かというレジスタンスの予感なのだろう。

『狂覗』

 インディペンデントでなければおそらく撮れなかった作品という点では、藤井秀剛監督作『狂覗』も同様だ。ジャンルに分類するならこれは学園スリラーに当たるはずだが、本作には学園の“主役”、生徒たちの顔はいっさい登場しない。生徒のいない教室で教師たちがおこなう抜き打ちの荷物検査。そこで陰湿ないじめの問題が暴かれていく様子を、藤井は80年代自主映画を想起させる映像の質感と、アングラ的な映像表現を駆使して、緊迫と衝撃のうちに映しだす。宮沢章夫の戯曲『14歳の国』をベースに、生徒たちの闇と教師たちの保身、偽善、無責任を暴露する本作は、俳優たちがスタッフワークも兼務し、わずか5日間で撮影された。低予算の作品であることは隠すべくもないが、かえって根底にある問題意識と熱情は剥き出しに見える。不利な条件を逆手に取り、テーマと表現を先鋭化させた、メジャーには決してできない作品のひとつだ。

■門間雄介
編集者/ライター。「BRUTUS」「CREA」「DIME」「ELLE」「Harper’s BAZAAR」「POPEYE」などに執筆。
編集・構成を行った「伊坂幸太郎×山下敦弘 実験4号」「星野源 雑談集1」「二階堂ふみ アダルト 上」が発売中。Twitter

■公開情報
『アリーキャット』
7月15日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
出演:窪塚洋介、降谷建志、市川由衣、品川祐、柳英里紗、川瀬陽太、森岡豊、馬場良馬、岡本拓真、森本のぶ、三浦誠己、高川裕也、火野正平
監督:榊英雄
脚本:清水匡
音楽:榊いずみ
製作:東映ビデオ/アークエンタテインメント/アサツー ディ・ケイ/東京メトロポリタンテレビジョン/ソニーPCL
配給:アークエンタテインメント
カラー/ビスタ/5.1ch/129分/R15+
(c)2017「アリーキャット」製作委員会
公式サイト:alleycat-movie.com

『ハローグッバイ』
7月15日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
出演:萩原みのり、久保田紗友、渡辺シュンスケ、渡辺真起子、小笠原海(超特急)、岡本夏美、松永ミチル、望月瑠菜、桐生コウジ、池田良、川瀬陽太、木野花、もたいまさこ
監督:菊地健雄
脚本:加藤綾子
主題曲・音楽:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)
製作・提供:Sony Music Artists Inc.
配給:アンプラグド
(c)2016 Sony Music Artists Inc.
公式サイト:hello-goodbye.jp

『ぼくらの亡命』
渋谷ユーロスペースにて公開中
出演:須森隆文、櫻井亜衣、松永大輔、入江庸仁、志戸晴一、松本高士、鈴木ひかり、椎名香織、森谷勇太、高木公佑
脚本・監督・美術・録音・音響効果・整音・編集:内田伸輝
撮影監督・スチール・美術・衣装・メイク:斎藤文
録音:新谷寛行
音楽:Yamikurae[Jacopo Bortolussi, Matteo Polato]
制作:斎藤文、内田伸輝
共同プロデューサー:日下部圭子
プロデューサー:斎藤文、内田伸輝
製作:映像工房NOBU
配給:マコトヤ
2017年/DCP・Blu-ray/カラー/ステレオ/16:9/115分
(c)映像工房NOBU
(c)2017 Makotoya Co Ltd.,/ (c)2016 NOBU Production
公式サイト:http://makotoyacoltd.jp

『狂覗』
7月22日(土)よりアップリンク渋谷にてロードショー
出演:杉山樹志、田中大貴、宮下純、坂井貴子、桂弘
監督・脚本・撮影・編集:藤井秀剛
原案:宮沢章夫『14歳の国(白水社)』
製作総指揮:山口剛
プロデューサー:藤井秀剛、梅澤由香里
アソシエイトプロデューサー:坂井貴子
音楽監督:スヴィアトスラヴ・ペトロフ 
製作: POP企画
共同製作:S-Kill
制作プロダクション: CFA
配給:POP
81分/デジタル/シネスコ/ステレオ
(c)POP Co.,Ltd.
公式サイト:http://www.kyoshi-movie.com/

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