ディーン・フジオカの色気は“美しい手”にあり 理想の男性像を体現した『結婚』の演技

ディーン・フジオカの色気は美しい手にあり

 ディーン・フジオカ主演の映画『結婚』を鑑賞後、彼の美しい手ばかりを思い返していた。短く整えられた爪は、女性を傷つけまいと気を使っている証。ささくれなどの肌荒れもなく、適度な湿いを保ったその手に生活感はない。“この人はどんな生活をしているのだろう“そんな興味から、“この人はどんなふうに女を抱くのだろう“という妄想が広がる。色気を感じるパーツは、それだけ想像力を掻き立てる力がある。

 古海健児(ディーン・フジオカ)は、結婚詐欺師だ。結婚をちらつかせて、女たちから金をだまし取る。その手口は、だますというより夢を見せると言ったほうが近い。母親のような女になりたくないと恋愛にコンプレックスを抱く女、他人の幸せにすり減った女、普通の女に落ち着きたくないというキャリア志向の女……本作には、様々なタイプの女が出てくる。だが、性格は異なれど、女性が理想とする男性像は、大きく変わらないのかもしれない。

 古海は、“モテる男“を凝縮したような男だ。清潔感のあるヘアスタイルは、彼の美しい手によってきっちりと整えられる。その髪が乱れる姿は、きっと私しか見られないのだろう……そんな特別感を与えることができる重要なアイテムだ。そして高貴な雰囲気を醸し出す指先でマスカットをつまみ、滴る汁を口に含む姿も実にセクシー。マスカットは、オスのジャコウジカがメスおびき寄せる麝香(ムスク)に例えられる強い香りを持つ。映像では香りを伝えることは難しいが、古海はきっといい匂いがする男なのだろう。ピアノも、ダンスも、そつなくこなす。その仕草は、もちろん指先まで神経が研ぎ澄まされている抜かりのなさ。

 こんなステキな人が、私のことなんて……そんな謙遜を抱く暇もないのがプロの技だ。次々と夢のような演出を繰り広げる。古海のテクニックは、彼女たちが“あー、私またやっちゃった“と、自分に嫌気を感じたときこそ本領発揮。フォローのうまさが彼女たちの心を一気につかむ。プライドの高さを覗かせたときには「かなわないな」と微笑み、うんちくを語りすぎたときには「もっと聞きたい」と唇を近づける。他の男たちが眉をひそめた自分のめんどくさい部分を、そんな風に言われたら、“やっと受け入れてくれる人が表れた“と、有頂天になってしまうのも頷ける。

 「結婚しよう」彼がそう言ったとき、女たちは幸せの絶頂を感じるのだろう。“これで幸せになれる“そう信じて。結婚すなわち幸せ、と思い込んでいる女性は多い。だが、本当にそうだろうかと古海は問い続ける。彼の「結婚しよう」は、別れの言葉なのだ。100万円という結婚詐欺にしては少なく感じる額を振り込ませて、古海は消える。そして、古海自身は幸せな結婚生活を送っているという矛盾。では、なぜ彼は結婚詐欺師を続けているのだろうか。その秘密は、ぜひ劇場で確かめてほしい。

 それにしても、この古海という男にディーン・フジオカはまさに適役だ。ディーン・フジオカ自身、どこかミステリアス。彼自身、結婚もしており、イクメンな一面も覗かせる。こちらから聞けば気さくに答えてくれそうな親しみやすさはあるのだが、どこかプライベートに気軽に立ち入れない隙のなさを感じる。異国で過ごした期間が長いからか、紳士的な振る舞いも自然。外見の美しさはもちろんだが、そうした自分から多くを語らない雰囲気も、知的さを感じさせ、こちらの興味をそそるのだろう。

 本作の監督は、NHK連続テレビ小説『あさが来た』の演出を務め、ディーン・フジオカの魅力を引き出した西谷真一だ。ディーン・フジオカの美しさを知り尽くしているかのようなカメラアングルも納得だ。そして、脚本は『結婚できない男』などを代表作にもつ尾崎将也。細かな所作が積み重なって登場人物の人となり、そしてテーマが浮き彫りになっていくさまは、ディーン・フジオカの丁寧な演技と相性の良さを感じた。

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