あふれ出るアニメ本来の魔法の力ーー湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』の真価を探る

『夜明け告げるルーのうた』の真価を探る

 とはいえ、この絵の魅力というのは、そこまで広く評価されていないのかもしれない。というのは、例えば新海誠監督の『君の名は。』では、詳細に描き込んだ背景や、グラデーションなどのエフェクトなどを最大限に利用して、リッチな画面を作り上げる方法によって観客を魅了していた。しかし、多くの要素を画面に詰め込んで圧倒させるというのは、誰でも理解できる、最も分かりやすい絵の魅力だともいえる。対して本作では、逆に線や色数を減らし抽象化を進めることで、絵をシンプルに洗練させていくミニマリズム(最小限主義)の手法がとられている。本作が魅力的な絵を連発できたのは、この単純化によって、作業量が比較的軽減されたという事情もありそうだ。見せたいところに注力することで、絵の魅力を高めることができているのだ。しかし、このような表現は、抽象画や墨絵などの美点を理解できなければ、寂しく物足りない絵に見えてしまうときもある。そういった点から、湯浅監督の表現はアートとして評価される一方、娯楽作品としては少しとっつきにくいものにもなっている。

 しかし本作のテーマは、ルーのように好きなことを好きと言える勇気を持つということである。カイが心の中の重い殻を自分からこじ開けるとき、彼はルーのように、本当に好きなものを好きだと言えるはずなのだ。そしてそういうメッセージを観客に伝えたいのなら、作品そのものが、自分のやりたいことを楽しみながらやっていなければならないだろう。そういう意味で、本作は作り手自身が「好きーーー!」と叫ぶように、自由に創造力を叩きつけることで、その役割を十二分に果たしている作品になっているといえる。あとは、時代の評価が追いついてくるのを待つだけである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『夜明け告げるルーのうた』
全国公開中
出演:谷花音、下田翔大、篠原信一、柄本明、斉藤壮馬、寿美菜子、大悟(千鳥)、ノブ(千鳥)
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子 湯浅政明
主題歌:「歌うたいのバラッド」斉藤和義(SPEEDSTAR RECORDS)
キャラクターデザイン原案:ねむようこ
キャラクターデザイン・作画監督:伊東伸高
アニメーション制作:サイエンスSARU
企画協力:ツインエンジン
制作:フジテレビジョン、東宝、サイエンスSARU、BSフジ
配給:東宝映像事業部
(c)2017ルー製作委員会
公式サイト:http://lunouta.com/

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