松江哲明の『ワイルド・スピード ICE BREAK』評:進化し続けるハリウッドの『ドラゴンボール』

松江哲明の『ワイルド・スピード』評

 とはいえ、監督を務めたF・ゲイリー・グレイは、前作『ストレイト・アウタ・コンプトン』や僕の大好きな『ミニミニ大作戦』など、群像劇をアクションと絡めながら描くのが非常にうまい。今作でもあれだけのキャラクターを、誰も埋没させることなく、見せ場を作っているのは流石の手腕です。今回は主人公・ドムがファミリーを“裏切る”。この展開も少年マンガでも新章が始まるときによく使われる手法ですね。そういった意味でも、本作は起承転結における「転」であり、次回作へのジャブになっているかなと。ポール・ウォーカーの死によって、映画の奇跡を起こしてしまった前作と比べるのは酷ですが、次回作、次々回作に向けて期待が高まる作品になっています。悪役を演じたシャリーズ・セロンも、シリーズ10では仲間になっていそう。

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 様々な国のハグレものたちが集いながら“ファミリー”となっていく『ワイルド・スピード』シリーズを見ていると、僕は自然と涙してしまうんです。世界に戦争や差別がなくならない現実がある中、映画が理想を描くと現実もそうなるんじゃないかと思えて。ハグレものたちが集い共同体となっていく映画は、日本で言うと『闇金ウシジマくん』が似ているかもしれません。その意味では、山田孝之君なら“ファミリー”に参加しても違和感なく溶け込めるんじゃないかな(笑)。

(取材・構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』が6月16日公開予定。

■公開情報
『ワイルド・スピード ICE BREAK』
全国公開中
監督:F・ゲイリー・グレイ
脚本:クリス・モーガン
製作:ニール・H・モリッツ
出演:ヴィン・ディーゼル、ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・リュダクリス・ブリッジズ、ナタリー・エマニュエル、エルサ・パタキー、カート・ラッセル、シャーリーズ・セロン、スコット・イーストウッド、ヘレン・ミレン
原題:「Fast & Furious 8」
(c)Universal Pictures
公式サイト:http://wildspeed-official.jp/

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