大人のための実写版『美女と野獣』レビュー “諸星大二郎”さえ感じさせる細部の面白さ

サエキけんぞうの『美女と野獣』評

 春を謳歌している村から離れ森に入ると、魔法で獣や調度品に変身させられた人々が幽閉される城がある。その周辺は冬のようである。野獣に囚われた父親を助けに行った読書好きな少女ベルは、教養ある野獣にじょじょに惹かれていく。心が決定的に近づく幻想的な「青い森と庭園」のシーンには感心させられた。通常の映画でロマンスが極まるシーンは、太陽や月や花火や海辺といった、誰もが心躍らざるを得ないような定番の場所が選ばれる。ところがこの物語の白眉のロマンス現場は、凍えるような温度感の森と気味の悪い屋敷。演出が難しかったのではないだろうか? 心を高揚させることが難しいはずの寒々しい「蒼い景色」。しかし何故か客の心は高鳴っていく。二人と一つになり、恋する気持ちになっていく。一度しか見てないので詳しくは解明できないが、やはりCG処理により、ハートマークになるように丹念に美しく処理されている風景だった。

 『美女と野獣』の原作は、フランスで書かれた「異類婚姻譚」。それがおとぎ話化されてきた。原作は「3人の娘と3人の息子を持つ商人が、町からの帰り道にある屋敷に迷い込み、もてなしを受ける」という話。大幅に変えられている。本作は、オバマ時代に作られ、トランプ施政期に公開された。

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 アメリカ映画であるこの作品を見て、日本人は強く何かを感じるかもしれない。それは権力をふりかざす、卑劣な男ガストンの末路についてだ。

 「強ければイイ女をゲットして当然」とばかりに強引に結婚を迫るガストン。ふり向かない美女ベルに、よけいに惹かれてしまうのは一般的な男の性だ。しかしベルの読書が大好きという設定が、実写映画のここではジンとくる。金や権力より、本と知性。そんな女性は、乱暴な権力志向の男に惹かれない。その骨子は、どうも拝金主義が受けいられがちなこの日本で心に響く。金と名声指向の固まりなはずの米国人に諭されるなんて……。

 自分の欲しいもののためには、ずっとよりそってきた友さえも裏切る! そんな乱暴者の末路は、転落だ! とこのアメリカ映画は教える。

 しかし現実は、そうした腹黒いジャイアンが勝って、人々もろとも、暗闇の国で不自由に永遠に幽閉される未来が待っていないとも限らないのだ。

■サエキけんぞう
ミュージシャン・作詞家・プロデューサー。1958年7月28日、千葉県出身。千葉県市川市在住。1985年徳島大学歯学部卒。大学在学中に『ハルメンズの近代体操』(1980年)でミュージシャンとしてデビュー。1983年「パール兄弟」を結成し、『未来はパール』で再デビュー。沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。など、多数のアーティストに提供しているほか、アニメ作品のテーマ曲も多く手がける。大衆音楽(ロック・ポップス)を中心とした現代カルチャー全般、特に映画、マンガ、ファッション、クラブ・カルチャーなどに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。

■公開情報
『美女と野獣』
全国公開中
監督:ビル・コンドン
出演:エマ・ワトソン、ダン・スティーヴンス、ルーク・エヴァンス、エマ・トンプソン、ユアン・マクレガー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:disney.co.jp/movie/beautyandbeast

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