誰もがクレイジーに咲きほこる! 英国の異才が放つ『フリー・ファイヤー』の底知れぬ創造性

『フリー・ファイヤー』の底知れぬ創造性

 今イギリスで最も注目を集める監督を5人挙げるとすれば、そのリストに彼が闖入してくることは避けられない。

 72年生まれの異才、ベン・ウィートリー監督がすごいのは、2011年に発表した『キル・リスト』を皮切りに「サスペンスとホラーを挽肉状にして得体の知れないジャンルに仕立て焼きあげました」的な唯一無二の作風で我が道を突っ走っていること。もっと言うと、エキセントリック。ビザール。脚本と編集で支える妻エイミー・ジャンプと共に、他人には真似できない確固たる作家性を築き上げてきた。

 『サイトシアーズ~殺人者のための英国観光ガイド~』では国内外の様々な賞に輝き、さらにウィートリーがJ・G・バラード原作のSF小説の金字塔『ハイ・ライズ』を映画化することがアナウンスされた時には、誰もが「ついに彼の時代が来た!」と感じたことだろう。もっともこの小説自体、彼のような者でないと調理不能なところがあるので、異色作に異才を掛け合わせた映画『ハイ・ライズ』はその相性ピッタリに素晴らしきカオスな近未来を垣間見せてくれた。

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 『ハイ・ライズ』は、ほぼ高層マンションの内部だけを舞台に、高層階と低層階が二極化して壮絶な抗争を繰り広げていくダークコメディだ。これを地上から伸びゆく「垂直型密室劇」と見なすならば、今回の『フリー・ファイヤー』はだだっ広い倉庫のみを駆使して十数人のキャラクターたちが入り乱れてバトルロワイヤルを繰り広げる、いわば「平面型密室劇」。タランティーノの『レザボア・ドッグス』を意識させつつも、むしろサム・ペキンパーのアクション&バイオレンスをそのまま倉庫内に置き換え、神の恵みのごとき銃弾の雨を降らせてみせる。過度な暴走ぶりで観る者を置きざりにするところもあった『ハイ・ライズ』に比べると、明らかにエンタメ寄り。ノリよく豪快に放たれた一発。何よりもウィートリーの名の下に集いし豪華キャストが、誰一人余すところなく輝いている。そこがまた良い。

 舞台は1978年のアメリカ・ボストン。もうこの設定からしてウィートリーのブッ込み感は半端なく、密室劇、英国映画、英国人監督、出演者の多くも英国俳優という状況の中でシレッと「ボストン」とやってのけるところに腹の据わり方がうかがえる。ちなみに撮影地は英国のブライトン。

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 この地にある倉庫で夜な夜な武器売買が行われる。現ナマを入れたアタッシュケースを抱えて急ぐのはアイルランドからやってきた武装組織の面々。あまり深く言及されないが、時代的に見ておそらくIRAのメンバーか何かだ。買う側と売る側。どちらも相手に出し抜かれないように意識を集中させながら手順をたどる。銃器の性能も申し分ない。金もちゃんとある。よし、交渉成立。かと思いきや、両陣営の末端どうしの小競り合いが勃発。これを引き金として、そこにいた全員がいきなり緊張状態へと突入。ドブ板にはまってみたいに動けなくなり、それぞれが出口の全く見えない死闘へと身を投じることとなる。

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