誰も見たことのないGACKTの姿も!? 沖縄国際映画祭の注目作を厳選レビュー

沖縄国際映画祭ピックアップレビュー

GACKTのかつてない姿が拝める『カーラヌカン』

20170430-okinawa-06th.jpg
©2017映画「カーラヌカン」製作委員会

 那覇から20キロほどの距離にある北谷(ちゃたん)町のリゾート、美浜アメリカンビレッジの会場に、多くの熱狂的な女性ファンが殺到した。目当ては、今回14年ぶりに映画の主演を務めたGACKTの舞台挨拶である。「GACKTさーーーん!!」という歓声に包まれた熱気あふれる会場で上映された『カーラヌカン』は、かなり異様な味わいの作品だった。

 人気の高さに関わらず、GACKTが14年間、映画で主役を演じてこなかったというのは、やはり扱いの難しい独特なキャラクターによるところが大きいだろう。沖縄本島からさらに400km離れた、日本最南西端の沖縄八重山諸島地域に訪れた世界的カメラマンを演じるGACKTは、やはりGACKTそのものといった風情だ。そして、その演技が作品に強い個性を与えていることも事実である。だが本作では同時に、誰も見たことのないGACKTの姿を拝むこともできる。

 沖縄の大自然の美、元新体操選手の木村涼香が演じる少女の「カーラヌカン(川の神)」の化身のような健康美。そしてGACKTという、「美の饗宴」が本作の中心となるコンセプトだろう。だが、少女の神性に魅了され、名声や富など全てを投げ出し、八重山の壮大な自然の中をさまよい続ける男を演じるGACKTは、その「美」すら埋もれさせるように、顔に付け髭をつけることによって、自然に還ってゆく姿をも表現している。おそらく映画で初めて表現される「自然に同化するGACKT」である。そして、完全に沖縄の自然と一体になった瞬間にGACKTの口から発せられる意外なセリフにも注目してほしい。

人間の内面にあるこわさと、真の贖罪を問う実験作『クロス』

20170430-okinawa-08th.jpg
©2017「クロス」製作委員会

 黒い糸と白い糸が編み込まれた布地(クロス)のように、人間という存在は、歳を重ねるごとに複雑な味わいを増していく。我々が普通に接している身近な人間の中にも、おぞましい欲望や嫉妬が渦巻いているかもしれない。本作『クロス』は、過去に愛する人の妻を殺めてしまったことで、重い十字架(クロス)を背負い続ける女の姿を描きながら、戦慄するような人間のこわさを暴き出していく。監督の奥山和由は、主演に紺野千春をキャスティングしたのは、年輪が刻まれていくことによって醸成された、ある種の「不気味さ」を彼女に感じたからだと述べている。

 本作は、「脚本家の登竜門」といわれる城戸賞を受賞した脚本を基にしている。受賞しながらなかなか映画化されてこなかった背景には、そこに描かれた「人間の内面」を表現する難しさがあったように思われる。舞台あいさつで登壇した奥山和由監督が、「変な映画」、「実験的な映画」と繰り返していたように、本作は役者のリアリスティックな演技を、不安定な映像によって映し出すことで、その怖さを表現しきろうとする。『蝉しぐれ』で日本アカデミー賞撮影賞を受賞した釘宮慎治が、共同監督として、その実験的表現に挑んでいる。

 この度、本作の監督であり、プロデューサーとして数々の優れた日本映画を生み出してきた奥山和由に、本作について、またプロデューサーという仕事の真髄や、現在の日本の映画製作の状況などについて、たっぷりインタビューすることができた。この刺激的な内容については、近日リアルサウンド映画部の記事で発表する予定だ。

20170430-okinawa-04th.jpg
著者撮影

 春とはいえ、強く降り注ぐ沖縄の陽光のなかで映画館に入って、ひととき陰のなかに埋没するという行為は、本土とはまた少し違った体験であるように感じた。今回、メインの上映会場となった那覇市の桜坂劇場は、何度かリニューアルされたものの、芝居小屋をルーツに持つ、日本の歴史ある劇場の一つである。そこで映画を観ることで、自分自身も歴史の一部になったような気持ちがした。すぐ近くにある、ガジュマルなど沖縄らしい大木が生え、人懐こい野良猫もたくさんいる希望ヶ丘公園は、上映時間の合間、沖縄のゆったりした時間を感じとることができるスポットだった。沖縄観光もかねて、ぜひ読者にも、次回の沖縄国際映画祭に来場し、自然と文化を感じながら、悠久の時間の中に身を浸してもらいたい。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる