『キングコング 髑髏島の巨神』“邦題”の狙いは? 効果的なネーミングについて考察

『キングコング 髑髏島の巨神』極爆上映へ

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第14回は“ネーミング”について。

 待ってました『キングコング 髑髏島の巨神』、3/25(金)からいよいよ始まります。GODZILLAにイェーガー、ドゥーフワゴンにカール自走臼砲など、デカいものが出る映画なら【極上爆音上映】でしょ、ってことで、『キングコング』の【極爆】、期待にお応えしてやらせていただきます。

 今回のコングはすでに2020年にGODZILLAとの対戦が発表されているので、今までと違い美女とのロマンスはお預け。体長も前作のピーター・ジャクソン版の7.4mから、大幅アップの30m超。それでもGODZILLAは100mを超えているわけで、こんなに体格差があって本当に闘えるのか、何がなんでもデビュー戦を観てその実力を確かめねばなりません。

 それにしても邦題に「髑髏島の巨神」とつけるとは、ワーナーさん攻めに出ましたね。原題は「KONG:SKULL ISLAND」、普通なら邦題も「コング:スカルアイランド」とするところを、本国と粘り強い交渉を行い、まずは“コング”ではなく“キングコング”とすることを認めてもらったそうで、さらに“スカルアイランド”をかつての“水曜スペシャル”のニオイを漂わせる“髑髏島”としていかがわしさをぐっと高め、とどめに“巨神“ですよ。“巨猿”じゃなくてね。素晴らしいネーミングです。GODZILLAは一種の神ですから、その対戦相手もまた神でなければいけません。これこそ怪獣神話の幕開けにふさわしいタイトルです。

 加えてポスターも怪獣絵師、開田裕治先生のオリジナルイラストで、観客のターゲット絞りすぎ! …だが、それがいい。僕はこの意気込みに、ガンガンのっかって行きますよ! 

 さて、ネーミングといえば、といきなり話題を変えます。ここで皆様にクイズです。下記の映画館関連の用語を説明してください。

THX / IMAX / Dolby ATOMOS / Imm Sound / DTS:X CINEMA / 4DX / MX4D / D-BOX / ULTIRA / TCX

 濃いめの映画ファンの方なら楽勝かも知れませんね。それぞれの言葉の意味はここでは説明しきれませんので、各自検索してください(笑) 

 それにしても映画業界はアメリカが中心ですから仕方ないとは言え、アルファベットの略ばかりです。こんがらがります。これらは特別な上映方式の名前の一部ですが、この名称でもって映画館にお客さんを呼ぼうというのはなかなか難しいことが予想されます。名前を聞いただけでは、いったい何のことだかわからないからです。だからまずそれが何か、説明をしなくてはいけません。

 立川シネマシティの【極上音響上映】という名称は、このことへのカウンターとしてネーミングしました。

 “極上”の“音響”という端的な説明であり、【極音】と略すことができて語呂が良く、辞書にはなくても雰囲気は伝わります。さらにここには別の意図もあり、アルファベットが醸し出す“規格・型番”感が漢字だとありません。“極音”は、どこかの企業が指定の機器を使用して、こういう建築基準で、世界中の映画館で展開する、というものとはまったく異なり、シネマシティと音響の専門家が、その作品をこの劇場で最適な音響で上映するために、手間とコストを掛けて質を追求する“意思”あるいは“思想”の名称なのです。

 高額な設備も、その意思や思想を表すための“道具”であり【極上音響上映】の本質ではありません。売りたいのは「音」というよりも、この映画の感動をもっと伝わるようにして届けたいという思いのほうです。シネマシティは立川だけにある映画館で、僕らはファストフードのように一定の品質を多数のスクリーンでぶれなく保つ、という考えではなく、シェフが個人でやっているレストランと同様に、この一皿に全神経を集中します。これは映画上映の新しい概念でしたから、新しい名前を必要としました。世界にある様々な特別な上映方式と競っていくためには、それに見合った“強靱でしなやかな”名前をまとわなければなりません。

 ただし、最初の最初からこの名を思いついたわけではありませんでした。最初の音響家による調整を施した上映は『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』でしたが、最初の上映にはこれといった名称をつけずに行いました。しかし、セカンドランの時にはこの例をみないサウンドには呼び名が必要だと感じ、名付けたのが“INVINCIBLE SOUND”(当時の告知ページ:https://cinemacity.co.jp/event/thisisit02/)。これはマイケルファンならすぐにピンとくるのです。INVINCIBLE、それは最後のアルバムのタイトルなのです。この意味は、無敵。

 ファンの皆さんには受け入れてもらえましたが、しかし、多くの方に“インビジブル”などと間違えられ、それはエロティック透明人間映画です、と説明しなければなりませんでした。懲りもせず、サードランのときには“THE EXPERIENCE”(当時の告知ページ:https://cinemacity.co.jp/event/thisisit03/)と名付けました。もはやこれはサウンドというだけではない、マイケルのライブそのもののような“体験”に近接したものになったと感じたので、これは我ながら超クールな名前を思いついたと悦に入っていましたが、サウンドという言葉も入ってないので、新規のお客様には何がなんだかわからなくて当然です。※同名のマイケルのダンスゲームが出たのはこの後の話。

 『鉄男 THE BALLET MAN』の上映の時も、塚本晋也監督立ち会いの元に音響調整を行い、比喩でなく内臓がきしむ、とんでもない音響になったので大興奮してしまい“BALLET SOUND”と命名、カッコええわー、と自己陶酔していたのですが、初日初回15名様しかお客さんに来てもらえず衝撃を受けました(告知ページ:https://cinemacity.co.jp/event/tetsuo/)。

 これではダメだ、とやがて気づきました。その時その作品、そのファンにだけにはウケても、次の別の作品にもつながり、ブランドを形成していかなれば毎回それぞれのファンにふりだしから告知、説明していかなければなりません。

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