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BOMI「えいがのじかん」第2回

BOMIの『哭声/コクソン』評:なんだかわからないけどスゴい! 緊張感が途切れない衝撃作

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「韓国映画は全体的にレベルがスゴく高い」

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 ナ・ホンジン監督は、「善と悪」「あるべき姿と本来の性(さが)」「ハッピーエンドとは言えない、映画とは違う報われない現実」を、“映画”の中で描くのがとても上手な監督だと思うのですが、前作まではちゃんと「善と悪」の役割が主人公たちに割り振られていたと思うんです。ところが、今作では「善と悪」がはっきりしない。いつまで経っても、というか最後まで、誰がいい人で誰が悪い人なのか、誰がヒーローで誰が悪者なのかが本当にわからない。この作品を通して監督が伝えたいことがあるのかないのかさえもわからなくなってくるんです。まるで禅問答のよう。まるで振り回されるジェットコースターのよう。それでいて、最後に浮かんでくるのは「善とは何か」「悪とは何か」という本質的な答えのない問題であるからして面白いわけですが。「お前の目に映るものが全てだ」と観客に突きつけてくる強さがある。

 余談ですが、ナ・ホンジン監督の演出はかなりぶっ飛んでいるということを聞いたことがあります。詳しいことはよくわからないんですが、とにかくナ・ホンジン監督の現場はヤバいと(笑)。『哭声/コクソン』も全撮影に6ヶ月間かけられていると聞きました。6ヶ月。半年ですよ? 今の日本映画界では考えられない長さです。日本だと、撮りたいカットを諦めたり、撮れたもので妥協したり、なにかほかの手段を考えたりするんでしょうけど、ナ・ホンジン監督はこだわる、とにかくこだわる。今回マジックアワーのシーンがありますが、なかなか撮りたい画が撮れなくて、そのシーンを撮るために、黒澤明監督ばりに1週間天気待ちを決め込んだらしいです。「今日は雨だからだめ、今日は曇りだからだめ」という感じで。この作品がかなりとんがった作品であることも含め、現代のなかなか予算のつかないエンタメ至上主義時代に、作品至上主義な作り方は気軽にできることではないので、そういうところも含めて、熱烈なファンを持つ監督なんだなと思いました。

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 現在『哭声/コクソン』と同時期に公開中のパク・チャヌク監督『お嬢さん』もシネフィルの間で好評を博していますが、韓国映画って、全体的にレベルがスゴく高いと感じます。表現したいことの質がちょっと違う。去年日本で公開された(韓国で大ヒットを記録したイ・ビョンホン主演の)『インサイダーズ/内部者たち』もスゴく面白かった。大統領の問題など、韓国は現在何かとニュースで取りざたされることも多いですが、それと同じくらい、国が抱えている政治的な問題や社会的な問題を国民が身近に感じることが多いということなのでしょう。ちゃんと音楽や映画で主義主張を表現しようともがいている人たちがたくさんいて。みんな、見えない敵じゃなくて、常に目に見える事象と闘っている。長年続く北朝鮮との緊張関係、アメリカのミサイル設置を受け入れたことにより生じた中国との不和、国内失業率の増加に実質上の貧富の差、熾烈な学歴争いに全世界自殺率1位。あまりにも生きづらい国だからこそなのか、今作のような浮世離れした神話的な話の中ですら、精神としてそこにちゃんと現実と地続きのリアルさがある。それこそが、韓国映画に強く引き込まれる理由なんじゃないかなと思いました。

 はい。上映時間は約2時間半と少し長めですが、本当にあっという間に感じると思います。体感スピードが加速していくんですよ。最初は少しずつ、なんなんだろう? という感じで不穏な空気感からゆっくりと始まるんですが、どんどん心拍数が上がっていって、気付いた頃には映画が終わっている感じ。そう、ランニングマシーンを走っている感覚に近いかもしれません。

 ほかにもいろいろ言いたいことはあるんですが、あぁもう、ネタバレになっちゃうので控えます、この映画を観終わった人と熱く語り合いたい(笑)。とにかく、映画が好きな人は絶対に観るべき作品だということをここに断言しておきます。

(取材・構成・撮影=宮川翔)

■BOMI(ボーミ)
シンガー。2012年6月に日本コロムビアよりミニアルバム『キーゼルバッファ』でメジャーデビュー。2015年にセカンド・アルバム『BORN IN THE U.S.A.』を発表。そして昨年12月にはTOKYO RECORDINGSプロデュースによる最新アルバム『A_B』をリリースした。モデルや女優としても活躍中。公式サイトTwitterFacebook

■公開情報
『哭声/コクソン』
シネマート新宿ほかにて公開中
監督:ナ・ホンジン
出演:クァク・ドウォン、ファン・ジョンミン、國村隼、チョン・ウヒ
配給:クロックワークス
2016年/韓国/シネマスコープ/DCP5.1ch/156分
(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION
公式サイト:http://kokuson.com/

      

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