『おとなの事情』監督が語る、イタリア映画と社会問題「みんな秘密と偽善を抱えて生きていくんだ」

『おとなの事情』監督インタビュー

 イタリアのアカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞にて、作品賞と脚本賞に輝いた映画『おとなの事情』が3月18日から公開される。本作は、イタリアの映画監督パオロ・ジェノヴェーゼが、「人生、ここにあり!」のジュゼッペ・バッティストンらをキャストに迎え制作したシチュエーション・コメディ。食事会の席に集まった3組のカップルとひとりの男が、“信頼度確認”と称して全員のスマートフォンをテーブルの上に置き、メールが届いたら読み上げ、着信はスピーカーフォンに切り替えて通話するというゲームを開始する。スマートフォンに着信が入るたびに、7人の本来の姿が露呈していき、それぞれの間にあった信頼関係が崩れていく模様が描かれる。

 監督を務めたパオロ・ジェノヴェーゼは、「鑑賞者は登場人物の不幸や秘密に同調していくはずだ」と、作品の狙いを説明する。

IMG_2573-th-th.jpg
パオロ・ジェノヴェーゼ監督

 家族間に不和が生じているエヴァとロッコ、新婚を迎えたばかりのビアンカとコジモ、愛人を持つレレと義母の扱いに悩むカルロッタ、とある理由で新しい婚約者(ルッチラ)を連れてこれなかったペッペ、この3組のカップル+1名が、スマートフォンの開示をきっかけに不幸に見舞われていく。ジェノベーゼ監督は、秘密の中でも特に不倫に強い関心を示す人が多かったと前置きし、「この映画を観たカップルが、僕のSNSに恋人と別れたと報告してくることがあるんだ。あなたの映画を観て、スマートフォンを見せるか見せないかで恋人と口論になった、とね(笑)」と、本作の影響について語った。

 恋人同士の不倫をはじめ、義理の母親を老人ホームに入れるのか悩む女性、妻との関係修復のためにセラピーへ通う夫、自身のセクシャリティを明かせない男、家族崩壊へ向かいつつある夫婦など、劇中で描かれる秘密はイタリアだけではなく、世界に共通する社会問題を風刺している。そんなキャラクターの設定について監督は、「イタリアに生きるミドルクラスの人々を集約し、彼らの問題を通して、多面的にイタリアの社会を映し出していきたかったんだ」と語る。また、7という人数にも狙いがあると明かした。「最初から4組のカップルを登場させたいと考えていた。そこでなぜ8人ではなく7人にしたかというと、ミステリアスな存在を作りたかったからなんだ。映画の最後で、なぜそのキャラが会食に参加しなかったのかが明かされるようにね。また、今回はあえて空席の場所から、現場の状況を撮影している。観客には、まるで自分が8人目のキャラクターになったように、感じてもらいたかったんだ。ちなみに、7と言っても7つの大罪とはまったく関係ないからね(笑)」

20170317-otonanojijyou-s3-th-th.jpg

 

 脚本に、監督を含めたスタッフ4名が参加しているのも特徴的だ。登場人物の秘密をめぐり、物語が二転三転していく巧妙な展開が、緻密に練られている。4人での共同作業に困難はなかったと振り返る監督は、「脚本家がたくさん参加していることは、作品にとっても僕にとっても大変プラスになった。みんなが間接的に、もしくは直接的に体験した話をどんどん出し合って、僕はそのたくさんのマテリアルの中からテーマを選ぶことができたんだ」と語る。さらに「スマートフォンの中に入っている秘密を考えたとき、健康やお金に関する秘密も面白いと思ったんだけど、今回の映画では人間関係に影響を及ぼす事柄に絞ったんだ」とテーマの選定理由を明かした。

 本作は、イタリアをはじめ、世界中の映画祭で脚本賞・観客賞など16冠を受賞している。高評価を受けた理由については、「僕たちの生活スタイルを大きく変えているスマートフォンを使って、人間の心理を語るアイデアが評価されたんだと思う」と説明する。また、イタリアの近年の映画事情についても、「伝統的なコミックフィルムが年々勢いを弱くなってきている印象がある。イタリアには、“パネットーネ”というジャンルがあって、クリスマスの日に見るような大衆向けの喜劇が人気だったのだけど、ここ10年くらいでどんどん減ってきているんだ。いまは、本作のように作家性を取り入れた作品が増えてきいるね。ただ、ひとつ言えるのは、やっぱりみんなアメリカ映画が好きなんだよ」と語った。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる