『アシュラ』キム・ソンス監督が語る、映画で暴力を描く理由 「すべての欲望は暴力的である」

『アシュラ』監督が語る、暴力を描く理由

 『MUSA -武士-』のキム・ソンス監督最新作『アシュラ』が3月3日より公開されている。再開発の利権を巡り狂気に走る市長パク・ソンべ(ファン・ジョンミン)、重病の妻のため正義を捨てた汚職刑事ハン・ドギョン(チョン・ウソン)、市長の下で悪の味を覚えていく後輩刑事のムン・ソンモ(チュ・ジフン)、善と悪の見境を失くした検事キム・チャイン(クァク・ドウォン)たちの闘争を描いた本作では、破滅へと向かう男たちの儚さと哀愁がスクリーンに映し出される。リアルサウンド映画部では、メガホンを取ったキム・ソンス監督にインタビューを行い、本作にかけた思いや、盛り上がりを見せる韓国映画界の現状、そして映画の中で扱われている“暴力”の考えについて、じっくりと語ってもらった。

「フィルム・ノワールの世界を現代に置き換えたかった」

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ーー今回の作品は、ウィルスによるパンデミック・アクションを描いた前作『FLU 運命の36時間』(2013年)とはまったく異なる内容になりましたね。作品の構想はいつ頃からあったのでしょうか?

キム・ソンス:実際にシナリオを書き始めたのは、『FLU 運命の36時間』が終わってからでしたが、シナリオに取り掛かる前からこのような話を撮りたいとはずっと思っていたんです。それに、今回は自分が本当に撮りたい作品を作りたいという思いが強くありました。というのは、『FLU』では観客に目線を合わせたほうが興行的に成功するのではないかと思い、別の脚本家が書いたシナリオで撮ったんです。結果的に、作品自体が少し未熟なものになってしまい、私自身恥ずかしい思いもしてしまったので、今回は自分のために、自分の好きな映画を作ろうと考えたわけなんです。

ーー今回の作品はフィルム・ノワールの色がとても強く出ていますね。

キム・ソンス:私はもともと、クラシカルなフィルム・ノワール、刑事ものや犯罪ものなどの映画が大好きでした。なので、そのような形の作品を作ろうと思い、今回の『アシュラ』が生まれたわけなんです。実は、シナリオを書き上げてから私の周りの信頼している人たち何人かに見せたのですが、話が変わっていて、撮影するのが難しいような内容ばかりだったので、多くの人に「これはうまくいかない」と言われました。でも、運よく今回の制作会社の代表がやりましょうと声をあげてくれて、そこからチョン・ウソンやファン・ジョンミンもぜひやりたいと参加してくれることになり、状況が一変したわけなんです。私としては、もう年齢も重ねているし、興行的にも成功させたいという思いもあったのですが、自分自身が好きなフィルム・ノワールの世界を現代に置き換えて観客の元に届けたいと考えたのです。

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ーー“痛み”を感じるようなアクションシーンは非常に迫力がありました。

キム・ソンス:今回の作品におけるアクションは映画としての見どころのために入れたわけでもなく、痛快さを感じさせるために入れたわけでもありませんでした。私はあくまで暴力の実態や暴力の不当さを伝えるためにアクションを使ったんです。なので、観客が一緒に痛みを感じたり、窮屈な思いをしたり、嫌悪感を感じるようなアクションシーンにしたいと考えていました。慣習的にアクションシーンを撮る場合、よく殴っているフリをして撮ることがありますが、今回はそういうことは一切しませんでした。キャストにはプロテクターを着用してもらって、実際に殴ってもらい、編集段階でCGでプロテクターを消すという作業を行いました。見た目的にも本当に殴っているのがわかる角度で撮っています。サウンドについても、韓国映画でよく使われているサウンドエフェクトを一切使わず、新たに作った音を入れているので、本当に殴っていると感じてもらえるようになっていると思います。無慈悲な暴力の恐ろしさや苦痛を伝えるために、アクションシーンはかなり力を入れて作り上げていきました。

ーー中盤のカーアクションシーンは今回の作品の大きな見どころのひとつになっていますね。

キム・ソンス:あのカーアクションシーンは、この映画の方向性を一気に変えてくれる分岐点になるシーンです。主人公のハン・ドギョンは、映画がスタートした時点から何を考えているのかわからない人物になっていますが、苦境に陥っていることは確かで、かなり悩んでいて、ストレスも極度に溜まっているということは観ている人もわかるはずです。その限界に達し、彼の内面の感情が爆発しているのがあのカーアクションシーンです。ただ、あのシーンでは、ハン・ドギョンが本来向けるべきところに怒りの矛先を向けていなくて、単純な理由である相手に怒りをぶつけています。なので、暴走している印象で撮りたいと考えました。心理戦が展開される場面でもあるので、どう見せるか非常に悩みましたが、撮影監督のアイディアによって、雨を降らせることにしたんです。雨の中カーアクションシーンを撮るのは大変なのであまりないことなのですが、実際にやってみたら本当に大変で後悔しました(笑)。できあがった映像を観ると大満足ですけどね。

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