深田晃司監督が語る『淵に立つ』の海外展開、そして日本映画界への提言「現場に理解のある制度を」

深田晃司監督が語る、日本映画界への提言

「日本でも映画の現場に理解のある制度ができてほしい」

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ーー『淵に立つ』は監督にとって初めての日本とフランスの合作でしたが、これまでの作品と比べて製作の仕方に違いを感じることはありましたか?

深田:基本的には変わらないのですが、単純に自分が生きてきた文化圏とは違う意見が入るので、それは映画を客観視する上ですごく役に立ちました。今回、プロデューサーだけではなく編集、サウンドディレクターなど、フランスのスタッフにも参加してもらったのですが、一番違いを感じたのは編集です。自分の中でちょうどいいと思っていた140分の尺から、20分ぐらい削ることになりました。「それはなくても伝わる」と、説明的な部分が削られていくんです。映画は基本的に、観客の想像力との綱引きだと僕は思っているのですが、それがなかなか難しい。「ここを省略してもお客さんにはわかってもらえるだろうけど、ここを切ってしまったらさすがに想像力の範囲を越えてしまうんじゃないか」ということを常に考えていて。具体的に言うと、『淵に立つ』は前半と後半で時間が飛びますが、もともとはそこに「8年後」とテロップを入れていたんです。でも、「俳優の表情や演技を見れば、時間が経過していることはわかるから、入れなくてもいいんじゃないか」とアドバイスを受けて、ハッとしました。フランスから勇気をもらいながら編集をしていましたね。

――なるほど。その辺りは日本とフランスの観客の理解度の違いもあるかもしれませんね。

深田:そうですね。観客が悪いという話ではなく、日本とフランスでは、まず教育から違いますから。フランスでは、美術や音楽と同じひとつの教養として映画が扱われていて、小学校から映画を観る機会が多いらしいんです。日本でも1年に1回ぐらい映画を鑑賞する機会がありますけど、文部科学省選定のものだったり、生徒が喜ぶハリウッド・アクションが多い。一方フランスは、月に1回は映画を観る機会があって、小学生が小津安二郎の映画を観ていたりするんです。だから、多様な映画に対する感性が違うのは当然なんですよね。あと、これは先ほどの編集の話にも繋がる、仕方のない問題でもあるのですが、日本ではヨーロッパ的な作家主義映画を作っても、すべて経済で回収をしなくてはいけないハリウッド型のシステムが成り立っているので、ある程度のわかりやすさが求められます。一方フランスでは、経済的に評価されることだけがすべてではないという考え方がシステムとしても定着しているので、助成金なども充実しているんですよね。

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ーー今回の作品は文化庁から助成金が出ていますが、それを得るのも大変なのでしょうか?

深田:今回は運よく助成金を得ることができましたが、得るための条件のハードルがすごく高くて、とても使いづらい制度なんです。ひとつは時期的な問題があって、助成金の審査結果が出るのが9月ごろなのですが、半年後の3月までに映画を完成させて観せないといけないんです。つまり、6ヶ月間のうちに撮影も編集も終わらせられる映画じゃなきゃダメ。これは映画作りのサイクルとしては非常に厳しいので、ある程度お金と体力がある作品に限られてしまうんです。ちなみに、フランスや韓国の助成金の場合は、その期間がもっと長くて、助成金が出てから1年~1年半ほど待ってもらえる。向こうの場合は、助成金が下りることでクオリティー保証になるからお金が集まるという考え方なので、それぐらいの猶予があるんです。あとは経理の手続きがものすごく大変だったり、いろいろな問題点があります。日本の映画界をより発展させていくためにも、もう少し映画の現場に理解のある制度が日本でもできてほしいと思っています。

ーー作り手はもちろん、観客や国も含めて日本の映画界も変わっていかなければいけないと。

深田:もちろん変わってほしいですし、特に作り手や行政は変わらないとヤバいなと。単純に多様性の問題だなと思うんです。今の日本はものすごく市場原理主義的に動いてしまっているので、作られるものが偏ってしまう。文化芸術の価値は経済的評価だけでは計れないから、多様性を守るために多くの国では公的な資金で支援を行っています。そうしないと、結局多くの作り手が貧困の中で撮影を行なっていかなければならなくなる。それってやっぱり不平等だと思うんです。僕なんかはハッキリ言って恵まれているほうですが、映画を作っていて30代になると、当然のように「結婚を取るか、映画を取るか」、「子どもを取るか、映画を取るか」というような二者択一を迫られるようになってきてしまう。そこで多くの人がやめていってしまうんです。また、東京で生まれたか生まれていないかでも、映画を続けられるかどうかが変わってきてしまう。それは音楽も同じだと思うんですが、地方で生まれた人が、東京へ出て来て家賃を払いながら、安い給料で映画に関われるのかと考えると、それってすごくハードルが高いですよね。東京に実家があるというだけで有利になる。才能とは関係のない、スタートラインの時点で不平等が起こってしまっているんです。どこの国でも完全な平等なんてありませんが、それを少しでも平等にするために、各国いろいろな助成制度を作っているんです。日本はそれが圧倒的に不足してしまっている。だからいま、映画に関わり続けられている恵まれた僕たちは、今後の若い世代がそうはならないように、いろいろと制度を見直していかないければならないと思っています。

(取材・文=宮川翔)

■リリース情報
『淵に立つ』
5月3日(水)発売
Blu-ray 豪華版
2枚組(本編1枚+特典1枚)
価格:5800円(税別)VPXT-71515 三方背BOX付き
【本編】片面二層/カラー/1080p High Definition ビスタ/DTS-HD Master Audio5.1ch/リニア PCM2.0ch(コメンタリー)
【特典】片面二層/カラー/1080i High Definition ビスタ/リニア PCM2.0ch
収録内容(予定):
<本編ディスク>
・本編約119分
・オーディオコメンタリー(浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治、深田晃司監督)
・予告編
<特典ディスク(予定)>
・メイキング
・インタビュー映像
・初日舞台挨拶
・『淵に立つ』公開スペシャル「映画監督深田晃司 海を渡って見えたもの」
封入特典:ブックレット
※仕様・特典等は予告なく変更になる場合がございます。予めご了承下さい。

Blu-ray 通常盤
本編1枚
価格:4800円(税別)VPXT-715164
片面二層/カラー/1080p High Definition ビスタ/DTS-HD Master Audio5.1ch/リニア PCM2.0ch(コメンタリー)
収録内容(予定):本編、予告編

DVD 通常盤
本編1枚
価格:3800円(税別)VPBT-14591
片面二層/カラー/ビスタ/ドルビーデ ジタル 5.1ch、2.0ch
収録内容(予定):本編、予告編

出演:浅野忠信、筒井真理子、太賀、三浦貴大、篠川桃音、真広佳奈、古舘寛治
監督・脚本・編集:深田晃司
主題歌:HARUHI「Lullaby」(Sony Music Labels Inc.)
小説:『淵に立つ』深田晃司著(ポプラ社刊)
撮影:根岸憲一(J.S.C)
配給:エレファントハウス、カルチャヴィル
助成:文化庁文化芸術振興費補助金
2016年/日本・フランス/日本語/ヨーロピアン・ヴィスタ/DCP/119分
(c)2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS
公式サイト:http://fuchi-movie.com/

発売元・販売元:バップ
提供:「淵に立つ」製作委員会
商品ページ:http://www.vap.co.jp/category/1486700238953/

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