DEV LARGEの人生は日本のヒップホップ史と重なるーーNIPPS × 川口潤 × 寺西崇洋が語り合う

関係者が語る、DEV LARGEのアーティスト像

寺西「コンちゃんのハードディスクには未発表の曲が山ほどあった」

川口:寺西さんはD.Lさんの最後のラップアルバム『THE ALBUM(ADMONITIONS)』(06年)にも携わっていますね。

寺西:最初はひとりで全部創るって言っていたのに、途中からK-BOMBを入れたり、デミさんを入れたりして、ものすごく時間がかかったよ。「デミさんもクリちゃんもラップのアルバムを出しているのに、俺はまだ出していない」って、奮起して作ることになったんだけど、結局4年くらいかかって完成した。誰にも言っていなかったけれど、その時から既に体調も優れなかった。コンちゃんには「寺ピーには、日本のラッセル・シモンズ(デフ・ジャム・レコーディング創設者)みたいになってほしいんだ」って、ずっと言われていて、インストアルバムの『KUROFUNE9000 [BLACK SPACESHIP]』(05年)を出す前から相談を受けていた。でも、ソロのプロジェクトとは別に、ブッダはブッダでずっとやりたがっていたね。コンちゃんのハードディスクには未発表の曲が山ほどあって、ブッダブランドのためだけに温めていたトラックもあった。自分のソロでも使っていない、とっておきのトラック。

川口:ドキュメンタリーの中でも語られていますが、リバイアスミュージックの竹内方和さんが携わった『KUROFUNE9000 [BLACK SPACESHIP]』も、D.Lさんにとって思い入れのある作品だったみたいで。

寺西:あれはきっと、コンちゃんにとってのストレス発散でもあったと思う。インストアルバムなら、基本的には自分の中で解決できるからね。大変だったのは竹内くんだよ。10円ハゲができるくらい苦労したって言うけれど、コンちゃんと一緒に何かをやるっていうのは、そういうことだから。だけど、あのアルバムが形になって、竹内くんにとっても本当に良かったんじゃないかな。竹内くんがサンプル版を手渡した時に、コンちゃんは泣いたって言っていたけれど、彼にとってはセールスよりも何よりも、ちゃんと自分の作品ができたということに感動したんだと思う。完成しないで終わることも多かったから。

NIPPS:実はNYにいた時、すでにあいつがトラックを作るスピードは、俺たちがリリックを書くスピードより早くなっていたんだよ。俺はインストのヒップホップも大好きで、当時からヒデに「ヒットしなくても、インストが好きでレコードを買う人もいるんだよ」って話をしていた。だから、寝かせておくより、早く出しちゃった方がいいって。A面はラジオフレンドリーな曲にして、B面はコアなインスト曲も入れたり、いろんな出し方はあるからさ。

川口:でも結局、その後にみんなで作った曲は、ILLMATIC BUDDHA MC’S名義で作ったスチャダラパーとのスプリットシングル『TOP OF TOKYO/TT2 オワリのうた』だけでしたね。アニメ『TOKYO TRIBE2』の主題歌になった。

寺西:あれが3人でやった作品としては最後だね。コンちゃんの中では、ILLMATIC BUDDHA MC’sはブッタブランドと住み分けされていた。
でも事実上、あの曲がブッタの最後の曲になってしまった。井上三太さん自身に『TOKYO TRIBE2』の主題歌をオファーされて、でもデミさん以外はあまり詳しく読んだことがなかったようで……。

NIPPS:俺は当時、遊んでいた女の家に『TOKYO TRIBE2』があって、パラパラ読んでいたんだよ。

寺西:それでもコンちゃんは久々に3人でやれることにノリノリで、井上三太さんのことを「先生!」って呼んでいた。最初はすごくダークな曲でやるって言っていたんだけれど、俺が「ちょっとコア過ぎるんじゃない」って話をして、急遽トラックをキャッチーなやつに差し替えることになった。

NIPPS:俺も「漫画の主題歌なんだからいいんだよ」って、後押ししてね。

川口:「TOP OF TOKYO」は、実は別バージョンもあったんですね。デミさんがラップしている音源で、世に出回っていないものはあるんですか?

NIPPS:結構、あると思う。どこで録ったのか、この前、すごく珍しい音源を聴いてさ。ブッダブランドのメンバーで延々とラップしているのがあったんだ。「俺たち、こんなにラップできたんだ!」って、自分でも驚くようなやつで、アリオケのトラックでCD2枚分くらいあった。たぶん、日本に帰ってきて合宿に行った時に録ったんだと思う。

寺西:レコーディングで合宿に行くなんて、もうずいぶん昔の話だよね。合宿は、制作から逃げちゃうようなやつを缶詰にするために、音楽業界ではよくやっていた。

NIPPS:ところが俺たちは、3日間の合宿の2日目で逃げ出して。女を追い求めて東京に飛んで帰っちゃったんだ。で、その時に知り合った女の家に、『TOKYO TRIBE2』があったというわけ(笑)。

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