今だから発見できる、デヴィッド・ボウイの狂気  サエキけんぞうの『ジギー・スターダスト』評

サエキけんぞうの『ジギー・スターダスト』評

 ご覧になればわかるが、問題は山積みだった。照明が暗いのは、映画撮影用準備でなかったからだ。しかし、それだけに浮かび上がるボウイの霊気が凄い。今となっては鬼気迫るように見えるのは僕だけだろうか? この映画はまるで暗黒の宇宙に旅立とうとする宇宙人の姿を捉えたようである。コークの影響もあっただろうガリガリの身体が白熱したロックサウンドで絶唱する。浮かされたようなボウイの瞳は本当にアブナい。黄泉の国を行き来しているようだ。それに合わせ、陶酔した女性達の表情も凄い。何か、魔物に魅入られたようである。その観客席は、稲光に映されたような断続的な光で浮かび上がる。それは、圧倒的に照明が足らず、困ったペネベイカーが、客の姿を映すために、カメラマンに客席のフラッシュ撮影を奨励した結果だというのだ。ボッボッと赤く現れる客席は、霊界へとボウイにさらわれかけている。

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 ボウイが山本寛斎の衣装を使用し何度も変幻する。その楽屋シーンが映し出される。信じられないほど痩せこけた生々しい若きボウイの裸体が見られることもこの映画の貴重な魅力だ。爬虫類を通りこし、まるで昆虫の裸体のようでもある。まさにエイリアンだが、衣装の変化を遂げてまたステージへ戻るのも面白い演出だ。この楽屋シーンの挿入は「ライブの流れが損なわれる」と批評家がケナしたポイントなのだが、変身というボウイの生涯のテーマが具現されているわけで、ファンにとってはたまらない展開といえるのだ。

 ボウイの脱皮直前期を捉えたこの映画の白眉曲は、9曲目の「チェンジズ」だろう。「変わらなくちゃ」と歌う。まさにボウイは、ジギーを捨てる決意をそこに重ね合わせていたわけだ。本物のドキュメント・ソングである。

 なぜボウイはジギーを終わりにしなければならなかったのだろう? それはズバリ、アメリカで飛躍したかったからだ。次作『ダイヤモンドの犬』はアメリカをターゲットとした整理されたサウンドに塗り変わる。そして次次作『ヤング・アメリカンズ』ではシングル『フェイム』で見事にアメリカNo.1に輝くことなるのだ。

 ここでミック・ロンソンを放てきし、次作『ダイヤモンドの犬』で、生涯の付き合いのプロデューサーとなるトニー・ヴィスコンティを呼び戻す。2016年遺作『ブラックスター』を送り出したトニーにより、この映画は2003年、音響が見違えるクリアーさで蘇った。映像も良くなっており、闇の中で妖しくゆれるボウイの本物の「狂気」は、新しいファンを生むだろう。古いファンはもっと深くボウイの虜になるだろう。ボウイは最後「サフラゲット・シティ」で歌う。「俺を頼るな!チケット買えなかったんだろ?」。チケットを買えなかった、生きたボウイに出会えなかった人も、むしろ今だから発見できることが沢山ある。新しいチケットにも福がたっぷり詰まっているのだ。

■サエキけんぞう
ミュージシャン・作詞家・プロデューサー。1958年7月28日、千葉県出身。千葉県市川市在住。1985年徳島大学歯学部卒。大学在学中に『ハルメンズの近代体操』(1980年)でミュージシャンとしてデビュー。1983年「パール兄弟」を結成し、『未来はパール』で再デビュー。沢田研二、小泉今日子、モーニング娘。など、多数のアーティストに提供しているほか、アニメ作品のテーマ曲も多く手がける。大衆音楽(ロック・ポップス)を中心とした現代カルチャー全般、特に映画、マンガ、ファッション、クラブ・カルチャーなどに詳しく、新聞、雑誌などのメディアを中心に執筆も手がける。

■公開情報
『ジギー・スターダスト』
1月14日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
監督・製作:D・A・ペネベーカー
撮影:ジェームズ・デズモンド、マイク・デイビス、ニック・ドーブ
出演:デビッド・ボウイ、ミック・ロンソン、トレバー・ボーダー、ウッディー・ウッドマンジー
1973年/イギリス/90分
提供:オンリー・ハーツ、アダンソニア  配給:オンリー・ハーツ
(c)jones/Tintoretto Entertainment Co.,LLC 
公式サイト:http://ziggystardust.onlyhearts.co.jp/

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