『父を探して』と『君の名は。』の共通点とは? 配給会社代表が語る、インディペンデントアニメの世界的潮流

『父を探して』配給会社代表インタビュー

アニメーションだから描ける現実がある

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(c)Filme de Papel

ーー新世代のアニメーション作家たちは、アニメーションで現実を切り取る、ある種ドキュメンタリー性のようなものを重視しているのでしょうか?

土居:世界のアニメーションの全体的な傾向として、現実とまったく関係ないファンタジーの世界を作り上げるというよりは、対象の輪郭を模写して対象を理解していくかのような、スケッチに近いものになってきているところがあります。新海監督の作品が現実の背景を模写したものに近くなるのも、アレ・アブレウの作品がブラジルの現実社会をベースにしているのも、根底ではそういう傾向を共有しているといえるのかもしれません。アニメーション・ドキュメンタリーというジャンルができあがるなど、アニメーションの機能自体も変わってきています。かつてはそういう「アニメーションによる現実性」みたいな原理はアンダーグラウンドな作家の特権のようなものだったのですが、最近では、世界的にヒットするような作品にも入り込んでいると感じています。

ーーアニメーションの役割が変わってきているというのは面白いですね。

土居:アニメーションによって、ようやく理解できる現実の領域があるというか……。

ーーそれは要するに、現実が複雑になりすぎている? アニメーションで単純化しないと理解が追いつかないと。

土居:それもありますし、例えば、アニメーション・ドキュメンタリーの研究書などを読んでいると、「実写の撮影では光に映るものしか撮れないが、アニメーションなら光に映る現実以上のものも捉えられる」というような考え方が出てきたりするんです。「アニメーションを使うことによって、現実の範囲が広がる」、と。『君の名は。』が時代を超越したような話になっているのも、まさにそういう考え方を思わせます。『父を探して』も現実的でありつつ、世代を超越していく。抽象化・匿名化された表現ゆえに、そこから読み込むことのできる現実の幅が広がるという側面もあるはずなんです。はっきりしていないから、巨大な現実を読み取れてしまう。そういうことが、近年のアニメーション作品を観た時の圧倒される経験につながっているのかなと思います。『父を探して』はその好例です。

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(c)Filme de Papel

ーー2016年はインディペンデントアニメーションを観る機会が多かったですが、日本ではまだまだ市場が小さいかと思います。2017年以降も世界的な流れは続くのでしょうか?

土居:世界的に、長編アニメーションはここ2~3年で一気にクオリティが上がり、本数も増えてきています。インディペンデント作家はかつては個人ベースで活動をすることがほとんどでしたが、本作のアレ・アブレウ監督のように、作家としての個性を保ちながら自分自身のスタジオを持ち、ある程度の規模感で作品作りをする人が目立ってきた。その結果、世界各国から優れた長編アニメーション作品が生まれています。個人作家がフックアップされて長編を作るという流れが、世界中で起こりつつある。新海監督もそういう感じがありますね。コミックス・ウェーブ・フィルムがずっと大事に育てながら、ここだというタイミングで東宝と組んで、大ヒットするというような。「インディペンデントアニメーションは儲からない」と思われがちなんですが、それは恐らく思われているだけ。インディペンデントの作家たちは、いま、多種多様な形で自分たちの持っているユニークな世界を世に問うことをしており、結果も出している。日本だけを見ているとなかなか気づかない傾向だとも思うのですが、僕もニューディアーを通じて、そういう部分を日本でサポートできるようになればいいと考えています。

(取材・文=杉本穂高)

■リリース情報
『父を探して』
Blu-ray(本編1枚)
価格:3,800+税/VPXU-71496 (POS:9)
DVD(本編1枚)
価格:3,800+税/VPBU-14562 (POS:6)
収録内容:本編80分+特典映像【メイキング、日本版予告編、海外版予告編(ティザー、本予告2種) ※Blu-ray・DVD共通】
初回限定特典:ポストカードセット(2枚)
発・販売元:バップ
提供:ニューディアー
<スタッフ>
監督:アレ・アブレウ
音楽:ナナ・ヴァスコンセロスほか
エンディングテーマ:Emicida「子どもの目に映るのは(少年と世界)」
2013年/ブラジル/原題:O Menino e o Mundo/英題:The Boy and the World
配給:ニューディアー
配給協力・宣伝:プレイタイム
後援:駐日ブラジル大使館
助成:シネマ・ド・ブラジル
(c)Filme de Papel
商品サイト:http://www.vap.co.jp/category/1476679668300/
公式サイト:http://newdeer.net/sagashite/

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