川口敦子の『ミューズ・アカデミー』評:ホセ・ルイス・ゲリンと濱口竜介がみつめる現代映画の焦点

川口敦子の『ミューズ・アカデミー』評

 ところで『ミューズ・アカデミー』の主要な舞台、バルセロナ大学で教鞭をとるラファエル・ピント教授はイタリアの古典を究め、『シルビアのいる街で』がオマージュを捧げたダンテの詩文集『新生』の翻訳を手がけた縁で監督ゲリンと親交をもち今回の”ピント教授”役での“主演”が実現した。その教え子たちも、妻を演じるひとりも学内で募った人材だという。俳優としての経験をもたない彼らの台詞がかもす緊密な演技の時空。それは演じることが当り前に求められているこの現実というシステムをもう一度思わせ、だから奇しくもゲリンの映画と同じ2015年ロカルノ映画祭でやはり注目された濱口竜介監督作『ハッピーアワー』との共振についても目を向けてみたくなる。

20170107-museacademy-sub8.jpg

 

 神戸の演技ワークショップに参画した女優を仕事にしてきたわけではない4人の女性。彼らが生きる中で心身に染みつけてきた”演技”を物語りの核心にすえてみせた濱口が、先行した東北記録映画3部作(『なみのおと』『なみのこえ』『うたうひと』坂井耕共同監督)で活写した”聞く人の顔”にこそ映る物語。

 それを4人の演技の礎としたという彼の映画もゲリンの映画がみつめるもの――人、その顔に映り込む世界、私たちの”投影”としてのミューズ/創作――と興味深く結ばれてはいないだろうか。ふたりの気鋭の眼差しの先にスリリングに現代映画の焦点が浮かんでもいるだろう。

■川口敦子
映画評論家。著書に『映画の森 その魅惑の鬱蒼に分け入って』、訳書に『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』など。

■公開情報
『ミューズ・アカデミー』
東京写真美術館ホール他全国順次公開
監督・脚本・撮影:ホセ・ルイス・ ゲリン
出演:ラファエレ・ビント、エマヌエラ・フォルゲッタ、ロサ・デロール・ムンス、ミレイア・イニエスタ
日本語字幕:高内朝子 字幕監修:岡本太郎
原題:La Academia de las Musas
2015 年/スベイン/92 分/デジタル/スベイン語・イタリア語・カタルーニャ語
配給:コピアポフィルム
(c)P.C. GUERIN & ORFEO FILMS

■「ミューズとゲリン」ホセ・ルイス・ゲリン監督特集上映
〈上映作品〉
『ベルタのモチーフ』、『イニスフリー』、『影の列車』、『工事中』、『シルビアのいる街の写真』、『シルビア のいる街で』
『ゲスト』、『アナへの 2 通の手紙』、『ある朝の思い出』、『サン=ルイのサフィール号』、『思い出』
2017年1月7日(土)~1月29日(日) 東京写真美術館ホール他全国順次公開
公式サイト:http://mermaidfilms.co.jp/muse/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる