東京国際映画祭ディレクターが語る、日本映画界の課題「多様性が失われているのでは」

東京国際映画祭・矢田部吉彦インタビュー

「映画業界の側でも、ロビー活動をする必要がある」

ーー以前、『フラッシュバックメモリーズ3D』でTIFFに参加して、ほかにも音楽業界との違いを感じるところがありました。音楽のコンペティションなどでは、関係者の話題は作品の良し悪しに関してが中心となりますが、映画祭では配給会社の方々が宣伝効果を非常に気にしていました。こうした違いをどう捉えていますか?

矢田部:外国映画が日本に公開されるには、採算が取れるか否かが非常に重要で、良作ではあるものの日本で公開できない作品はたくさんあります。そうした作品を公開する場として、今ほど映画祭の存在意義が問われている時代はないでしょう。一方で、配給会社にとっての映画祭は、作品の宣伝の場としての意味合いが強くなります。我々は映画文化の多様性を重視していますが、配給会社の目的意識は必ずしもそこにあるわけではない。また、海外の権利元の立場からすれば、TIFFで上映するのは良いけれど、その後に日本に売れそうなので、あまり上映回数を増やさないでほしいといった要望があることもあります。ただ、結局は配給会社が決まらず、映画祭での少ない上映に留まったというケースになることも少なくありません。外国映画に触れる機会を増やしていくためには、今後は映画祭とネットでの配信サービスなどが連携して、そうした作品をうまく公開していける環境を整える必要があるのかもしれません。

ーー2016年のTIFFでは個人的には『鳥類学者』が素晴らしすぎて、観れただけでも大収穫でした。一方で、チケットトラブルがあり、批判も起こりました。今回は批判されても仕方がない部分もあったと思いますが、良作を上映しているのは確かなのに、それとは違うところで批判されがちな状況を、どう捉えていますか?

矢田部:もちろん、心が折れることはたくさんありますよ。ただ、国から助成金をもらって運営している以上、厳しい目で見られるのは当然のことです。特に日本は文化に使われる予算の割合が他国に比べて著しく低いですし、一番お金を出しているのが経済産業省だという事実もあります。つまり、日本における映画は、文化である以上に商品であるという認識が強い。そのため、商品としての扱かい方を問われるわけです。これは構造上、仕方のないところです。その中で『鳥類学者』のようなアート性の高い作品をいかに届けるかが僕の仕事なので、頑張るしかないですね。

ーーところで先日、是枝監督の『邦画大ヒットの年に是枝裕和監督が「日本映画への危機感」を抱く理由』(現代ビジネス)というインタビュー記事に対し、矢田部さんは反論していました。「“クール・ジャパン”と言って、公的資金を使ってカンヌ映画祭で、くまモンと一緒に写真を撮っている場合ではない」という意見に対し、「是枝さんのような影響力のある方がばっさりと切り捨ててしまうと、いよいよ何にもできなくなってしまう」と仰っていましたが、その真意を改めてお聞かせください。

矢田部:公的資金は、ないよりあった方が絶対に良いんですよ。是枝さんの言うことももっともですが、くまモンの件は去年の話だし、いまその話を持ち出す必要はないんじゃないかなというのが、僕の意見でした。是枝さんの発言で、せっかく予算をうまく運用して、一般的にわかりやすい施策をしながら、ちゃんと映画のためになる使い方をしようと工夫している方が、動きにくくなる可能性がありますよね。僕が直接なにか批判されたというわけではないですが、この件に関しては一言残しておきたかった。クールジャパンはあくまで経済のための施策であって、わかりやすい方向に行くのは致し方ない。ただ、お金はお金なので、それをどう工夫していくかが大事です。そのためには、映画業界の側でも、きちんとロビー活動をする必要がありますよね。とある政治家の方は、映画業界の力になりたいけれど、何をすれば良いのかが全然わからない、大作を手がける配給とインディペンデント映画のプロデューサーでは言うことが全然違う、と仰っていたそうです。まずは映画業界の側できちんと、どういう風に資金を回していくべきか、意見をまとめていく必要があるのかもしれません。

ーー文化庁の助成金も、小規模だけれど意義のある作品より、メジャー大作に出ていたりしますよね。

矢田部:助成金に育成という考えは薄いのかと思います。助成金を出したのに映画が形にならないのが一番困ることで、そうなるとある程度、実績がある監督の作品に助成金を出さざるを得ないのかと。税金を使う以上、回収の見込みを考えるのは当然のことで、それはある程度、仕方がないことなんだと思います。映画は文化だとはいっても、非常にお金のかかるものなので、芸術品としての扱いは難しいですよね。たとえ中規模の作品に助成金が出ても、今度は単年度決算で3月末までに仕上げる必要があったり。ドキュメンタリー映画などだと、完成が見えにくいものなので、どこで助成金の申請をするかも難しいところです。

ーーなるほど、難しいですね。あと、これは偏った意見かもしれませんが、映画は世間的にも非常にポピュラーな文化で、誰もが親しむものじゃないですか。義務教育で音楽の授業や美術の授業があるのなら、映画の授業があっても良いと思うのですが。

矢田部:それはすごく思います。僕の場合は生物の先生が授業の一環と称して、たくさんの映画を観せてくれたのがすごく良かったんですよね。そこから一歩進んで、中高生に映画を作ってもらったりすると、映画への見識もより深まり、結果として日本の文化的な素養を高めることにも繋がると思います。まずは映画祭の中で、そうした取り組みを行っていければと考えていますね。実際、大学にレクチャーに行ったときなど、「とにかく騙されたと思って見に来てくれ」って誘って、映画祭のことを知らない学生さんに来てもらうと、ほとんどの方は僕のところに来て、「めちゃくちゃ面白かった、本当に紹介してくださってありがとうございました」って言ってくれるんですよ。レッドカーペットとかがあって、敷居が高いものに思われがちだけれど、若い世代の方が来ても絶対に楽しめるし、料金だって決して高くない。もしかしたら「東京国際映画祭」なんて堅苦しい名前じゃなくて、音楽フェスティバルくらいカジュアルな名称にする必要があるのかな、なんてことまで考えてしまいます(笑)。誰もが楽しめるイベントなので、若い方にはどんどん来て欲しいですね。

■高根順次
スペースシャワーTV所属の映画プロデューサー。『フラッシュバックメモリーズ3D』、『劇場版BiSキャノンボール』、『私たちのハァハァ』を手掛ける。最新作『WHO KiLLED IDOL? SiS消滅の詩』 が2月4日から公開予定。

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